主天使と熾天使
神に代わって神託を人々に授ける神の使い、〝天使〟。
人々にとってそれらは神に次ぐ崇高な存在とされ、時代や地域によっては神と同等に崇められる事もあるのだという。
そして、そういった思想に染まった場所には大抵。
何かを模した、1つの像が人々の手で建てられる。
……そう、それこそが〝天使像〟。
その地に住まう誰もが敬い、それを大切にしたのなら。
元となった天使が、その地に加護を与えるのだという。
だがそれも、その天使を崇める者が居る場合の話。
不気味かつ禍々しい造形ではありつつも、その巨大さから人によってはある種の荘厳さも感じ得るかもしれないその天使像を、そして元になった天使を崇める者など居はしない。
竜化生物の死骸を受肉体としているなら、なおさら。
天使の姿を模り終えても絡み合い蠢き続ける触手の気持ち悪さにユニとレイズ以外が吐き気や怖気を抱く中、ユニの背後で正しく従者の如く控えていたフュリエルが前に出つつ。
『私を知っていますね? 愚かなる同胞よ』
『……エェ、当然デストモ』
こちらは位階を除けば把握している事は少ないが、あちらは己を知っているだろうと踏んだフュリエルからの問いに。
『我ラ天使ニオケル最高位、4柱ノ熾天使ガ一角、フュリエル様。 我ガ名は〝エルギエル〟、主天使デアリマス──』
触手で形成された不気味極まる双眸で上位存在を射抜きつつ、エルギエルと名乗った天使は己の位階と敬意を示した。
……かと、思えば。
『──……イエ、アリマシタト申シ上ゲルベキデショウカ』
『……やはり、それが目的でしたか』
たった今、己の言葉で明かしたばかりの位階に関する情報を覆すかのような発言をし、それを聞いたフュリエルもまた全てを理解したかの如き呆れから来る溜息を溢していたが。
(何か意味深な会話してやがるが……)
(全く頭に入ってこない……)
又聞きしていた【紅の方舟】と【銀の霊廟】からすると何が何だか解らず、きょとんとせざるを得なくなっており。
されど会話に割り込んでいけるような雰囲気でもないとは流石に解っている彼らを尻目に、一歩前に出た狩人が1人。
「ちょっといいかな、エルギエルとやら」
言わずもがな、ユニその人である。
あらゆる人間、特に神や己を信仰していない人間を下等生物として見下しがちな天使が相手な為、下手に出るつもりこそなくとも情報を引き出すべく穏便に行こうとしたところ。
『……構イマセンヨ、【最強の最弱職】』
「「「ッ!?」」」
「私を知ってるの?」
『貴女ノ存在ハ天界ノ誰シモニ周知サレテオリマスユエ』
「へぇ、そっか。 でもさぁ──」
エルギエルがユニの存在を知っていた事に、そして天界中の天使という天使全てに周知されている事にユニ本人より他の者たちの方がよほど驚きを露わにする中、当の本人は特に驚く事も疑問に思う事もなく、ただニコリと微笑んでから。
「──そういう扱いの人間、もう1人居るよね」
『……仰ル通リデス』
「君の目的は私も解ってる、多くは言わないから──」
自分の他にもう1人、天界で特殊な扱いを受けている人間が居る筈だという確認めいた問いに、もはや全てを察した様子で肯定したエルギエルに向け、ユニは更に距離を詰めて。
「──〝それ〟、返してくれない?」
巨大な天使像の胸の中心辺りを指差し、そう言った。




