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竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


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宝箱より出でたるは──

 ……一行に、より一層の緊張が走る。


 ここに至るまで彼らを襲い続けてきた触手の1本1本は大した脅威でなくとも、それらが束になった際の厄介さはユニとレイズ以外の全員が嫌というほどに理解させられており。


「「「「「……ッ!!」」」」」


「「「……」」」


 その大元が潜んでいるとなれば、まだ距離的には離れていようと臨戦態勢へ移行してしまうのも無理はないと言えた。


 そんな中、特に気を張り詰めていない狩人ハンターが2人。


「ねぇ、ユニ嬢」


「……」


「あれ、ユニ嬢? 聞こえてない?」


「……何?」


「なぁんだ、聞こえてるんじゃないか」


 相変わらず気軽にユニへ話しかけるレイズと、いい加減その無神経さに苛立ちを隠すのも馬鹿らしくなってきたユニ。


「君たちの目的も僕と同じ〝マリア嬢の救出〟なんだろうけど、かと言って同じクエストを受注したわけじゃない。 だから僕は僕の好きに動くつもりだよ。 異論なんてないよね?」


「……私の邪魔さえしなければ」


「そう来なくっちゃ! さて、どうしようかな」


 そして、やはりと言うべきかレイズの物言いは少しズレており、マリアの事しか頭にない彼を説得する時間的余裕もなければ、そもそも説得に必要な会話さえもしたくないユニはただ、『好きにしろ、だが余所でやれ』とだけ吐き捨て。


「……アレの発言が良い契機だとは思いたくないけど、あの宝箱との戦闘が始まる前に君たちの()()を決めておこうか」


「「役割?」」


「ボクのも、ですか……?」


「そう。 異論は認めないからそのつもりで」


 鼻唄混じりに何やら考え事を始めたレイズをよそに、まだ決めていなかった〝【白の羽衣(スワンクローク)】の捜索及び救助、並びに天使の討伐作戦〟における一行の役割を手短に伝え出すユニ。


「【紅の方舟(ナグルファル)】と【銀の霊廟(グリトルス)】、君たちの役割は〝サレスとフリードの護衛〟だ。 それ以外は何もしなくていいから」


「な……ッ」


「はァ!?」


「ゆ、ユニさん……!?」


 最初に伝えたのは【紅の方舟(ナグルファル)】と【銀の霊廟(グリトルス)】の役割。


 曰く、『余計な迎撃はせず、護りに専念せよ』──と。


 当然、両パーティーのリーダーの表情は驚愕に染まり。


 何も聞かされていなかったサレスもまた困惑する中。


「さっきも言ったけど、あの宝箱の中に潜んでる天使を討ってから【白の羽衣(スワンクローク)】を捜して助けるだけなら私1人でいいんだよ。 でも私は、〝一連の事象に黒幕が居るならサレスにトドメを刺させる〟って首狩人協会(B・ハンターズギルド)の長と契約を交わしてる」


「だから、彼が天使を討つまで〝盾〟になれと……?」


「アンタなぁ、いくら何でも……ッ」


「〝盾〟じゃ上等すぎる。 〝壁〟くらいが妥当だろうね」


「「〜〜ッ!!」」


 わざわざ足手纏い3人と足手纏いにさえなれない5人の雑魚を連れて来てやっているのだから、〝肉壁〟になる覚悟くらい持ってないでどうする──ここに来て更に非常極まる現実を突きつけられた8人の顔が怒気と恥辱に彩られるも。


「「……了解……ッ」」


「よろしい」


 数瞬の後、彼らはその役割を受け入れた。


 かたや、かつて自分たちを世話してくれた恩人たちの為。


 かたや、サレスに殺されてしまったリーダーの為。


 受け入れる以外に、選択肢などなかったのだ。


 ……誤解のないよう言っておくが。


 ユニは別に、彼らを見下しているわけではない。


 心の底から、これくらいが適当だと思っているだけ。


 弱者が抱く恥辱が、ユニに届いていないだけなのだ。


「で、サレス。 君の役割は〝天使の討伐〟、それだけだ」


「ま、待ってください! そんな事ボクには──」


 唇を噛みつつも各々が得意とする陣形に移行、与えられた役割を遂行すべく手短に戦闘中の行動の擦り合わせを両パーティーが行う一方、サレスに与えられたのは天使の討伐という、まさしく〝黒幕にトドメを刺す〟為の最も重要役割で。


 ()()()()()()()()()()()()()()、それを誰より自覚しているサレスが『無理です』と主張しようとした、その時──。


「──ッ、おい! アンタ、何を勝手に……!!」


「好きにしていいって言われたから──ね!」


「「!!」」


 擦り合わせも終わっていないのに動き出した狩人ハンタが1人。


 Sランク竜狩人ドラゴンハンタ、【高潔なる二面性(デュアルノーブル)】──レイズ。


 ちなみにユニは、好きにしていいとは言っていない。


 邪魔さえしなければ、と言っていた。


 それを彼は、『ユニが動いていない今なら邪魔するも何もないだろう』と捉え、触手を重ねて両断した魔力の光刃で。


 遠く離れた宝箱を、真っ二つに斬り裂かんと試みた。


 もはやお馴染み、剣の技能スキル──【剣操術:斬閃(ソードビーム)】。


 流石に【紅の方舟(ナグルファル)】の副リーダーたる魔剣士キャバリエのそれと比べれば威力も速度も申し分ないと言えるが、ではユニのようなSランクやマリアのような最後の希望(ラストホープ)と比べればどうかと問われると──Aランク下位相当だな、という印象の一撃。


 そして、そんな飛翔する斬撃が命中した──その瞬間。


「「「「「ッ!?」」」」」


「「「ッ!!」」」


「あ、あの時と、同じ……!」


『CHEEEE……ッ』


 傷一つ付いていない宝箱がゆるりと口を開けたと思ったのも束の間、両パーティーにとっては初見の、サレスとフリードにとっては2度目となる触手の噴出が一瞬にして発生し。


「な……!? 何だ、あの馬鹿げた数の触手……!!」


「でも、こっちに向かって来ない……!?」


「触手同士が絡み合って……何かを、模ろうと……?」


 ここに至るまでと同じく、やはりこちらへ一目散に襲いかかってくるのかと思いきや、どういうわけか触手たちは前方ではなく上方へと立ち昇り、そして互いに絡み合い始めた。


 ……何かの姿を、形取ろうとしているようにも見えるが。


「説明してる時間もないか。 さぁ、始めるよ」


「え、ゆ、ユニさん……!?」


 もはや完成間近のそれをただ見ている時間も惜しく、サレスに無理やり覚悟を決めさせるくらいしかできなさそうだと判断したユニの一言を皮切りに、触手たちが動きを止める。


「あ、アレはまさか……とんでもなく禍々しいが……」


「巨大な、天使……?」


「いいや、アレは天使というより──」


 錫杖のような形に重なり合った部分だけ気になるが、その姿はどう見ても宝箱を支点に直立した巨大な天使そのもの。


 しかし、ユニの見解は違うようで。


 宝箱より出でたる触手が絡み合い、模ったのは──。


「──……〝天使像〟、かな?」

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