「却下」
この竜化世界における職務の中で最も多くの人間が就いていると言っても過言ではない、竜と首からなる狩人稼業。
F〜Aへとランクが上がっていくにつれ該当する狩人は減っていき、Sランクに至っては僅か10人しか存在しない。
竜に7人、首に2人、分類不明が1人。
そして、7人の方へ属する狩人の1人が目の前の優男。
【高潔なる二面性】、レイズ=ド=アイズロン。
その名の通り、この国を治める王族の血を引く第3王子。
この広い世界でも数少ない、狩人稼業に身を投じた王族。
第3王子ならば王位継承権を有していてもおかしくなさそうなのに、わざわざ危険な職務を選んだのは何故なのか?
それには、彼の二つ名が深く関わってくるのだが──。
「──……それで、どうして君がここに? この迷宮は今、ドライアさんの許可が下りない限り立入禁止の筈だけど。 大体、仮にも王族がメンバー1人連れずに何をしてるんだ?」
「おやおや、そんなに興味を持ってくれるとは嬉しいね」
「……うるさいな、さっさと答えなよ」
それを疑問に思う間も与えず、ユニが渋面で声をかける。
曰く、『私の問いに答えろ、そうでなければとっとと目の前から消えろ』──と、まるで敵に向けるような声色で。
(これほどまでにユニ様が不機嫌になられるとは……)
(この人と、何かあったのかな……?)
そんな彼女の露骨な態度の変化に気がついた為に、フュリエルとサレスは奇しくも互いに言葉を交わしているかのような独り言を脳内で呟いてしまっていたが、それはさておき。
「いやぁ、メンバーに関してはね……道中で死んじゃって」
「「「え!?」」」
「Sランクパーティーのメンバーまでもが……!?」
ユニに問われたレイズが何でもない事であるかの如く口にしたのは、彼以外の全員が死亡したという衝撃の事実。
仮にもSランクパーティーに属するメンバーが、だ。
最後の希望を擁するAランクパーティーが未帰還となっているだけでも驚きだというのに、と一行が唖然する中で。
「ま、気にはしてないのだけれどね。 代えは利くし」
「か、代えって、そんな言い方……」
当の本人は全く気に病んでいないばかりか、ここで目的を果たしてから脱出した後、新たに継ぎ足す駒の選定を楽しみにさえしており、今まで自国が誇るSランクに抱いていた幻想が砕け散った事で一行がガクッとショックを受ける一方。
(パーティー単位ってのは間違いなかったみたいだけど……)
先に迷宮へ潜ってるヤツらが居て、そいつらはSランクパーティーだ──要は複数人の介入があり得るという予測自体は間違いではなかったが、それはそれで思うところがある。
レイズが率いていたパーティーの名は、【透明の指環】。
彼以外の全員がAランクかつ二つ名持ち、前衛から後衛までバランス良く揃った優秀な狩人で構成されたパーティーではあったが、どういうわけかメンバーの出入りが激しく。
ユニが知っている4人のメンバーも望んでパーティー入りしたわけではなく、レイズが常日頃から果たしたいと意気込んでいる目的の為に命を賭けろと、レイズ自身や彼の親、つまり国王陛下から命じられてメンバーになっていたようで。
(……哀れ極まりないな。 こんな男をリーダーに据えざるを得なかった彼らも、あんな目的の為に狙われてた彼女も──)
せっかく優れた才を生まれ持ち、それを活かし切れるだけの研鑽をも積んできたというのに、この迷宮の最奥にて今も救けを待っているのかもしれない最後の希望の一角を巡ってのいざこざに巻き込まれた彼らも、そして彼女も哀れだと。
そう思っていた時、聞き捨てならない言葉が鼓膜を叩く。
「──そこでどうだろう、僕もご一緒するというのは」
「あ、あぁ、オレらとしちゃあ助かるが……」
「えぇ、Sランクの助力なんて願ったり叶ったりで──」
あろう事か、レイズも同行するという最悪の提案。
そして、それを二つ返事で2つのパーティーのリーダーたちが受けようとする中、ユニはその場から動く事もせず。
「──却下」
「「えっ」」
「だから、却下」
ただ一言、正確には二言。
あまりにあっさり、それでいて確かな拒絶の意を示した。




