不意の邂逅、ユニの嫌いな竜狩人
それからというもの、せっかく最初の襲撃を退けたにも関わらず、10人と1匹を嘲笑うように触手の襲撃は続き。
最初は余裕綽々だった【紅の方舟】はもちろん、そもそも大した活躍はできていなかった【銀の霊廟】も段々と消耗していく中で、サレスを先頭に進んでいた一行がふと気づく。
「──……最初と比べて随分と静かになってきたな」
「えぇ、襲撃がなくなったわけではないですが……」
奥へ奥へと進むにつれ、襲撃の頻度が落ちている事を。
通常、迷宮内においては入口から最奥へと潜っていけばいくほどに接敵する彷徨う者の平均Lvは上がり、それに比例するようにか、或いはただ単に最奥へと辿り着かせぬようにか、頭数こそ変わらずとも襲撃の頻度自体も加速していく。
しかし、どういうわけかこの迷宮は一行が進めば進むほどに安全になっていくという正反対の性質をしているようで。
「まるで、別の何かに頭数を割いてるような……」
「何かから逃げてる、ってのもあるかもだぜ?」
「何か、って……そんなの……」
「ん? どうかした?」
「い、いえ──」
何も解らぬままではあるが、それでもいくつかの推測を立ててみたはいいものの、それらに対してユニが何かを答える事はなく、そもそも満足に聞いてすらなかった様子であり。
思っているより重要な事象でもなかったりするのかもしれない、と全員の意識が捜索や救助に向き直りかけていた時。
『──ッ!! TAAAB……!!』
「ッ、この先に何か居るわ!」
「「「「「!!」」」」」
召喚士が索敵用にと召喚したままの黒蝙蝠竜が反響定位にて何らかの存在を感知し、それに反応した召喚士が警戒を促した途端、【紅の方舟】はもちろん【銀の霊廟】も汚名返上とばかりに臨戦態勢へ移行、全方位への警戒を強める中。
「ゆ、ユニさん、その……もし黒幕とかだったら──」
戦闘への参加をユニに止められてはいるが、『何か』という事は人間──延いてはサレスが討伐を命じられている黒幕の可能性もあり、そうなったら最奥でなくとも戦っていいのかと、殺していいのかと縋るように確認せんとした瞬間。
「──……よりにもよって……」
「えっ? な、何て──」
付き合いの短いサレスはもちろん、従者となって1年ほど経つ3柱のNo.2たち、そして孤児院の頃から一緒だった3人の幼馴染でさえ見た事があるか怪しい渋面を晒すとともに舌を打つユニの呟きに驚いたサレスは聞き返そうとしたが。
残念ながら、それは〝何か〟の介入によって遮られた。
「──これはこれはユニ嬢。 こんな場所で相見えられようとは、やはり我らは合縁奇縁の仲。 そうは思わないかい?」
「「「「「な……ッ!?」」」」」
鬱陶しいくらいに煌びやかな黄金色の短髪、全てを見透かすような薄紫色の双眸、ほど良く鍛えられた長い手脚、露骨に高級かつ高性能な装備──などなど、どう見てもランクが高そうで、それでいて出自も普通ではなさそうな狩人と邂逅した瞬間、ユニとサレス以外の全員から驚愕の声が上がる。
「……相見えたくなかったよ、私は」
「はは、手厳しい。 これでもランクは同じなのだけどね」
「や、やっぱりアンタは……ッ」
翻って、ユニは一行が上げたような驚愕の声とは対照的な呆れと嫌悪感の入り混じるが如き低めの声色にて明確な拒絶を示すも、当の優男は全く懲りる様子も怯む様子もなく。
それどころかSランクであるユニ──世間的にはそうなっている──と同じ高みに居ると自ら明かした事で、ようやくサレス以外の8人全員が彼の正体を確信するに至る。
アイズロンにおける最高ランクの竜狩人にして、最高ランクのパーティーを率いるSランクの魔剣士たる彼の名は。
「【高潔なる二面性】、〝レイズ=ド=アイズロン〟!?」
「そうだとも。 郷を同じくする狩人たちよ」