永久に無敵とはいかず
──【護聖術:白架】。
先述した通り、ATKでもINTでもなくMNDの数値で攻撃するという、数ある攻撃系技能の中でも特殊な聖なる一撃。
……狩人の常識に当て嵌めて考えれば、トリスが打ち負ける道理はない。
適性についてはともかくとしても、持って生まれたMNDの差や単純なLv差、更には迷宮宝具による能力強化の有無など枚挙に暇がなく、そもそもトリスの【護聖術:白架】に同じ技能で競り合おうとする者は、たとえ訓練という前提があったとしても存在しない。
撃ち勝てる筈がないと解っているからだ。
しかし、ユニは何の躊躇もなく己の人差し指1本のみを触媒とした小さくも神々しい煌めきを放つ【護聖術:白架】を発動し、イージスを触媒として巨大かつ荘厳な煌めきを放つ純白の十字架へと衝突させ──。
「「「え……ッ!?」」」
「「「な……ッ!!」」」
──……トリスの【護聖術:白架】を、撃ち破った。
観覧客が目を剥いたのも仕方のない事だろう。
伯仲の末にトリスの【護聖術:白架】が競り勝ったなら、『まぁ順当だろう』と素人目線でも思えたし。
同じく伯仲の末にユニの【護聖術:白架】が競り勝ったとしても、『これが【最強の最弱職】か』と改めて畏怖する事もできたし。
規模を鑑みれば本来あり得ない事だが、もし伯仲の末に互いの【護聖術:白架】が対消滅したとしても、『同じSランクだしな』と結果を受け入れる事もできた筈だ。
しかし、この結果を受け入れろというのは無理がある。
何しろ2人の【護聖術:白架】は伯仲するどころか片方が片方を一瞬で消し去るだけでは飽き足らず、そのままの勢いで撃ち破られた方へと直進していき、心の臓を撃ち抜くが如き衝撃を誇る十字架を胸当ての中心に命中させたのだから。
トリスの【護聖術:白架】を一方的に撃ち破るほどの威力を持っていながら、それでもトリスの胸当て1つ貫く事ができていないのは、まだ【護聖術:無敵】の効力が解けていないからだろう。
その証拠に、トリスの身体には【旭日昇天】による負傷は一切見られないし、ユニから受けたダメージもすでに完治しており、まさに万全と言って差し支えない状態である筈。
それでも、トリスは明確に打ち負けた。
国内外の観覧客の殆どは未だに理解できていなかったが。
碧の杜から散々ユニの強みを解説されていた白の羽衣は、この結果に至った理由を嫌と言うほど理解できていた。
「──……伝導率、500%……」
「そういうこった」
そう、ユニが【護聖術:白架】の触媒とした指の魔力伝導率が、人間はおろか竜化生物ですらもあり得ない500%という数値を叩き出している事が原因だと理解できていたのだ。
これが他の武器、今回で言えば刀や槍、或いは迷宮宝具であるアイギスを触媒としていたのなら、おそらくトリスの【護聖術:白架】がギリギリで打ち勝っていたか、もしくは相打ちとなっていただろうというのが碧の杜の見解である。
「……やはり、か……」
そしてその事実を誰よりも自覚し、また誰よりも早く予期していたのはトリス自身。
彼女はユニとの長い付き合いで、とうに理解していた。
この先、何年、何十年と時が経っても。
ユニと己を阻む断崖絶壁のような壁は、どれだけの研鑽を積み重ねようと決して超える事はできないのだと。
形だけの〝盾役〟ではなく、真の意味でユニを護る〝盾〟になる事など、夢のまた夢でしかないのだと。
そして、ついにその時が訪れる──。
「ッう、ぐ……ッ!!」
「「「!?」」」
瞬間、数秒前まで無傷だった筈のトリスの全身鎧がドロリと融解し始め、胸当ての中心に小さくも深い十字の傷跡が突如として刻まれたかと思えば。
「ッが、は……ッ」
「「「ひ……ッ、きゃあぁああああッ!!」」」
それと同時にトリスの口から決して少なくない量の真っ赤な血が吐き出された事で、トリスのファンが悲鳴を上げる中。
「難儀だね、長すぎる制限時間というのも」
「……そう、だな……」
トリスと同様に全てを解っていたユニは、トリスを労るわけでも憐れむわけでもなく、ただただ眼前で膝をつく幼馴染を無表情で見下ろすだけ。
……全ての覚醒型技能には欠陥が存在する。
当然、【護聖術:無敵】も例外ではない。
この技能を発動した者は一定時間、一切のダメージを受けないという覚醒前の効果を残したまま自由に動け、そして他の技能をも併用する事ができるようになるのだが。
発動してから解除されるまでに受けた全てのダメージが、解除した直後の使用者を襲うという、その場から動きさえしなければいい【護聖術:不動】にはない致命的な欠陥がある。
だからこそトリスは今、ダメージを受けたのだ。
神の力と、ユニの技能によるダメージを。
しかし、【護聖術:不動】が覚醒した聖騎士の殆どは、この欠陥が災いして敗北するだの死亡するだのといった事とは無縁であるらしい。
何故なら、【護聖術:無敵】の平均制限時間は長くても5〜10秒。
決して使い勝手の良い技能だとは言えないうえに、その短時間で死に直結するほどのダメージを受けるかもと解っているなら【護聖術:不動】を使えばいいのだから。
だが、トリスの【護聖術:無敵】の制限時間は幸か不幸か──5分。
異様なまでの適性の高さが、普通の聖騎士にはあり得ない彼女だけの時間を与えてくれたのだろう事は疑いようもないし、いつもであればトリスを殺せるほどのダメージを食らう事もない為、使用を躊躇うような事もなかった。
しかし今回に限っては全てが負に働いてしまった。
使わざるを得ない状況だったという事も否定できないが、使ってしまったからこそ今の有様となった事もまた否定できない。
……どのみち、トリスは敗けていたのだ。
使わざるを得ない状況に持ち込んだ──……或いは、持ち込まれた時点で。
約10年振りに眠気以外で意識が遠のきかける中、舌を噛んででも失神を回避していたトリスが口を開き。
「ッ、なぁ、ユニ……正直に……答えて、くれ……」
「ん?」
「私は、1度でも……お前の、〝盾〟、に──」
彼女の目標、夢であるところの『ユニを護る〝盾〟となる事』はまだ叶っていないが、それでもパーティーを組んでからの6年間、たった1度でも形だけではない〝盾〟になれた事はあったかと、まるで親に縋る子供のように手を伸ばしながら問いかけたが。
ユニは、ふるふると首を横に振り。
「──なれてなかったよ。 ただの1度も」
「……そう、か……やはり、遠い、な──」
無情にも、そう吐き捨てた。
……そう答えてほしいのだろうと、察したから。
憑き物が落ちたような表情で笑うトリスを見れば、それも理解してもらえるだろう。
そして、とうとう両膝をついたままの姿勢でトリスが意識を手放した事を確認したスタッドは無事な左手を掲げ。
「……トリスとハヤテ、戦闘不能を確認! 回収しろ!」
この先は、ユニVSクロマの一騎討ちだと宣言した。
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