最奥で見たもの
時は、また少し遡り──。
「──皆、覚悟はいいか? ちゃんと遺書は書いたか?」
「縁起でもねぇ事言うんじゃねぇ!」
「はは、そうだな。 悪い悪い」
Aランクパーティー、【白の羽衣】が未帰還扱いとなってからすぐに集められた狩人たちが迷宮の前で冗談を言い合っていたが、その表情はお世辞にも快活なものとは言えない。
無理やり笑顔を貼り付けている、といった様相。
まぁ、当然と言えば当然だろう。
……【白の羽衣】が未帰還となるほどの何かが居る迷宮。
否が応でも〝死〟の1文字が全員の頭を過ぎるのだ。
しかし、こうして集められた彼らは決して弱卒ではない。
救助対象である【白の羽衣】にこそ及ばないまでも充分な功績を積み重ね、【白の羽衣】に対抗するかの如く6人全員が合成職で構成されたAランクパーティー、【黒の鉄冠】。
リュチャンタに属する2つのAランクパーティーに次いで優秀な5人で構成され、Aランクパーティー昇格筆頭候補としてよく名が挙がるBランクパーティー、【淡青の波濤】。
上述した2つのパーティーと比較すると明確に実力では劣ってしまうが、こと得意分野と言える捜索や救助といったクエストとなると達成率が格段に上昇するという、どちらかと言えば粗暴な者も多い竜狩人には珍しく心優しい6人で構成された後衛多めのBランクパーティー、【浅緑の楽園】。
そこに、リュチャンタの竜狩人協会の専属狩人として籍を置くAランクの神官と、Bランクの賢者と竜操士を加え。
「君は足さえ引っ張らなければいい。 余計な真似はするな」
「っ、は、はい……」
どこからどう見ても弱卒なのに何故か協会長肝入りとなっているFランクの盗賊、サレスを加えた21人が捜索及び救助隊として集められていたが、もちろん他の20人は彼を戦力とカウントしておらず、『何もするな』とだけ忠告し。
すでに協会長の許可なしでは潜るどころか近づく事さえ禁じられていた迷宮の扉を開け、決意を新たに突入していく。
サレスやフリードが言っていた通り、ユニたちが突入してすぐに見た時のような無数の穴は空いておらず、いくつかの穴から彷徨う者が牙を剥き出しにして襲いかかって来たものの、これといって苦戦する事もなく奥へ奥へと進んでいき。
……どこら辺が危険なんだ? 何故この程度の迷宮で未帰還になってる? という疑念が総意になりかけていた頃合いで。
「ここが最奥……で合ってるよな?」
「その筈ですが……妙ですね」
一行は迷宮の最奥と思われる場所に到達したのだが、そこにある筈の──否、居る筈のものが居ない事に眉を顰める。
「迷宮を護る者が居ねぇ……誰かが討伐でもしたのか?」
「協会長が侵入禁止にしてんのに? いくら何でも──」
そう、本来ならば最奥で分不相応な欲望を持つ人間たちを堂々と待ち構えている筈の迷宮の主がどこにも居ないのだ。
もちろん誰かが討伐し、ある程度の素材回収を済ませた後で焼却したというなら再現出するまで次の個体が現れる事はないものの、それは攻略どころか扉へ近づく事さえ禁じられている現状ではまずあり得ない、と議論していたその時。
「──……え? あ、アレって……?」
「……何だよ穀潰し、許可なく喋んな」
「う、ご、ごめんなさい……」
「ちょっと、そんな言い方あんまりですよ」
「そうよ全く……サレス君、どうしたの?」
ここまで一言も発する事なく、ただ言われた通りに余計な真似をせず後をついて来ていたサレスが何かに気づいて声を上げた事にすら苛立ちをぶつけるBランクの忍者に対し。
サレスを邪険にするつもりのない【浅緑の楽園】、そのリーダーであるBランクの精霊術師と、協会専属の竜操士の2人がなるべく怖がらせないよう優しい声音で問いかけると。
サレスがおそるおそる指差したその先に──。
「あそこにあるの……〝宝箱〟、ですよね……?」
「「「「「!」」」」」
どこにでもありそうな木製の宝箱が置かれていた。
まるで、『どうぞ開けてください』と言わんばかりに。