(彼ら基準では)激しい攻防の中で
ユニとフュリエルが声も荒げぬまま会話する中にあり。
彼女たちから少し離れた場所では、まだ人間側に犠牲こそ出ていないものの双方ともに傷を負っていない者も居らず。
『OOOッ!! RAAAAMッ!!』
「ッ、しまっ──」
360°全てが砂に囲まれているという事もあって、どこから飛び出してきてもおかしくない緊迫した戦場に適応しろという方が難しく、こうして唐突に足元や背後から牙を剥き出しにして特攻する個体が続々と現れる事もまた神経を削り。
ただでさえDEFが薄く、それこそ突進1回で命を落としかねない死霊術師が真後ろからの攻撃に反応し損ねた時。
「──危ない! 【盾操術:剛壁】ッ!!」
『E、AAA……ッ!?』
「あ、ありが──」
聖騎士が身体を張って守ったまではいいものの、CランクかつLvも足りない彼らでは有効打を与えるまでは至らず。
それでも退かせられればと技能を発動せんとする中。
「──退いてろ【銀の霊廟】! 【剣操術:竜殺】ッ!!」
『O"ッ!? A、AAA……ッ』
「嘘でしょ!? アレが首狩人の一撃……!?」
「これがランクの、Lvの……いや、経験の差か……!」
本来、竜化生物の討伐は管轄外である筈の【紅の方舟】に所属する魔剣士の一撃は、今の【銀の霊廟】には決して不可能な威力を叩き出し、蠕蚯蚓竜のような何かを両断した。
「ンな事ァどうでもいい! それより気づいてるか!?」
「あ!? 何をだよ!」
「もう何十匹と倒してる筈だってのに──」
その事実に5人が驚愕と自分たちへの失意を抱いていたのも束の間、魔剣士が自分たちに何かを伝えようとしている事だけは解ったが、それが何なのかは解っていない様子の5人に対し、舌打ちしつつも目線を下に遣った彼が告げたのは。
「──Lvが上がってる感覚が全くねぇって事にだ!!」
「「ッ!?」」
ユニがとっくに気づいていた、例の事実について。
尤も、パーティーに商人が居るわけでもなければそういう力を持った迷宮宝具を持っているわけでもないのに、その事実に辿り着いただけでも素晴らしいと言えば素晴らしい。
「そ、そう言えば突入時から何も変わってないような……」
「はァ!? 何だってそんな事に……!?」
実際、【銀の霊廟】は彼に告げられてようやく違和感を抱くくらいしかできていなかったし、その薄く淡い違和感から推測する余裕さえ持つ事ができていなかったものの。
「……倒してもLvが上がらない……それって確か──」
視野の広さゆえか、思考の深さゆえか、リーダーの聖騎士だけはその違和感から来る予期せぬ事実に辿り着きかけていたようだが、それも残念ながら確信とはいかないようで。
「──事態を察するまで随分かかったね、フュリエル」
『遅きに失する、とはまさにこの事かと』
「はは、手厳しいな」
「わ、笑ってる場合じゃないんじゃ……!? このままだとあの人たち皆、食べられるか消し飛ばされるかして──」
そんな彼らのやりとりを後方から見ていたユニがにこやかな笑顔で、フュリエルが興味のなさそうな無表情で語り合う中、彼には見えない天使と談笑するユニを咎めるような立場にはないと知りつつも、サレスが苦言を呈そうとした時。
「──そんな状況で涎を垂らしす、君が言う?」
「えっ? あっ……!?」
美少女のそれに等しい綺麗な唇から、さも食欲の抑え方を知らない子供のように涎を垂らす彼の方がよほど『そんな場合じゃない』と言われるに相応しいのではと反論するユニ。
……五十歩百歩という言葉こそ、まさにこの事だった。