『お伝えすべき事』
蠕蚯蚓竜。
人間にとって無害どころか場合によっては有益な存在になり得る蚯蚓を派生元としている為か、危険度は極めて低く。
Lvや出現する迷宮の難易度によって多少の差異こそあれど、F〜Dランクの域を出る事はない弱めの竜化生物──。
──……それが、ここに居る全員の共通認識だった。
少なくとも、ユニとサレスとフリード以外にとっては。
そして、その認識が誤りだったと改めさせられたのも。
上述した2人と1匹以外の共通認識だったようで──。
「──う、お……!? ぐあぁッ!!」
「大丈夫か!?」
「く、あぁ問題ねぇ! それより目ぇ離すなよ!」
「解ってる! 死んでらんねぇからな、アイツの為にも!」
かたや、リーダー抜きかつ不慣れな竜化生物との戦闘でもそれ相応の攻防を成立させている【紅の方舟】の3人と。
「ぜ、蠕蚯蚓竜ってこんなに強かったの……!?」
「それにこの数……ッ、一時も気が抜けない……!」
「息吹の勢いも通常の個体より強い気が……!」
「ッ、ここは竜狩人の戦場だ! 彼らに遅れは取るな!」
「ンな事ァ解り切ってっけどなァ……!!」
「おい【銀の霊廟】!! テメェら仮にも竜化生物退治の専門家だろ!? ちまちま手ェ出してんじゃねぇぞ腰抜けが!!」
「ッ、口出し無用に願いたい! これが僕らの戦い方だ!」
「チッ、Cランク風情が一端の口を……!!」
かたや、あちらと違って万全の状態であってもなお経験の差で後手に回り始めている【銀の霊廟】の5人、合わせて8人の狩人たちが何らかの異変を感じ取りつつも応戦する中。
「……あの、本当にボクはいいんですか? 戦わなくて」
サレスは今、相も変わらずフリードを抱えたままユニとともに後方に控え、8人と異なり全く戦闘に関与しておらず。
自分はもう竜狩人ではないという事実を加味しても、ああして【紅の方舟】の3人が命を張っている以上、囮くらいにはなった方がいいのではと引け目から来る疑念を溢すも。
「〝今回の件に裏で糸引く黒幕が居る場合のみ戦う〟。 君が首狩人として認められる為の条件、聞いてなかった?」
「い、いえ……」
「その時が来れば動いてもらう。 気は抜かないように」
「は、はい……っ」
ユニからの返答は、あくまでも〝否〟。
提示された条件についてもそうだが、そもそも対竜化生物においてサレスが役に立てる場面など何一つなく、それこそ囮にさえなり得ない──暗にそう告げられた事を理解できてしまったサレスが頷きつつも8人の戦いを見守っていた時。
『──ユニ様、少しよろしいでしょうか』
「ん? 何、フュリエ──……ル?」
突如、ユニにのみ聞こえる声で背後から話しかけてきた天界のNo.2、熾天使のフュリエルに反応したまではいいが。
ここで、ふと疑問を抱くユニ。
「あれ? 今日ってテクトリカの番じゃなかった?」
……そう。
悪魔→死霊→天使……の順番が固定されている以上、今日は冥界のNo.2であるテクトリカの番だった筈なのに、どういうわけか何の先触れもなくフュリエルがそこに居たのだ。
前のアシュタルテのように強制送還されてもいないのに。
『……故あって交代を。 そして──』
そんな抱いて当然の疑問に対し、どうやら何らかの理由があって代わってもらったのだと明かした──余談だが、とんでもなく渋られたらしい──フュリエルは一呼吸置きつつ。
『──その理由について、3つほど貴女様にお伝えすべき事がございます。 少々お時間をいただけませんでしょうか』
「伝えるべき事……?」
見た事もないほどの神妙な表情で、そう告げた。