『解りません』
原則、迷宮の内部構造に規則性と呼べるものは一切なく。
地図作成こそ有効だが、まず地図作成自体が難しい。
索敵や探索に向いた技能、或いは魔術を扱える竜狩人を地図作成役としてパーティーに勧誘、加入、急遽増員させる事は迷宮攻略において半ば必須であり、それはSランク狩人を2人も擁していた【虹の橋】でさえ例外ではなかった。
尤も、【虹の橋】の場合は聖騎士以外の全員が地図作成役を担えるという戦闘とは関係の薄い優秀な技術を兼ね備えていた為、増員する事はなかったのだが、それはさておき。
当然、【白の羽衣】にも【白の羽衣】を捜索及び救助するべく派遣された者たちの中にも地図作成役は居て、サレスは後者に属していた以上、触りくらいは把握している筈──。
──そう思ったがゆえの疑問なのは間違いなかったが。
「……わ、解りません……」
「え?」
「解らないん、です……」
「はァ!?」
返ってきた答えは、よもやの〝不透明〟。
これには流石に、ユニ以外の全員が怒りか呆れを覚え。
「て、テメェ……! こン時の為に【最強の最弱職】はテメェを連れて来たンじゃねぇのか……!? ようやく役に立つのかと思いきや、言うに事欠いて『解りません』だとォ!?」
「ユニさん、流石にこれは……」
「「「……ッ」」」
胸倉を掴むところまではいかずとも、こうして凄んだり見下げ果てたりしてしまうのも致し方ないとさえ思える体たらくだが、それでも【紅の方舟】の3人はグッと堪えている。
それも当然と言えば当然だろう。
彼らのリーダーは、この少年に殺されたのだから。
そんな風に【銀の霊廟】の5人だけが苦言を呈する中。
「サレス、どうして解らないのか──」
サクサク、と音を立ててユニはサレスへと歩み寄りつつ。
「──違うな、どうして解らなくなったか教えてあげなよ」
「「「は……?」」」
「な、何でそれを──えっ!?」
そもそも何一つ解っていないのではなく、『不透明だ』と答えるに至った理由こそが解っていないのだと看破していたユニの提案に、サレスだけが図星を突かれたように動揺し。
何故それをと問うよりも早く、どういうわけか異性の胸元へ手を入れたユニがスルリと取り出してみせたのは──。
「──だって、この子がそう言ってるからさ」
「あっ……!」
『TA、AACHE……ッ!!』
「じ、迅豹竜……!?」
迷宮宝具の力によって縮小化した1匹の竜化生物だった。
ただし、それは単なる竜化生物などではなく。
サレスとともに唯一、1回目の【白の羽衣】の捜索及び救助へ派遣された者たちの中で生き残った迅豹竜だった。