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2人の長に見送られ

 初孫を失って以来、そしてサレスを拾って以降、歳が歳という事もあり1日の殆どを安楽椅子で過ごしていた協会長ギルドマスターが外に出ている時点でこの街の出身者たちは驚いたものだが。


「アタシはこの街の竜狩人協会(D・ハンターズギルド)の長、そして未帰還になってるのはこの街が誇るAランクパーティー。 見送りくらいして当然さ。 大丈夫だとは思うけど気をつけるんだよ、サレス」


「は、はい……」


 ただ1人、サレスは全く異なる理由で慄いていた。


 ……まぁ、それも無理はないだろう。


 これまでは単に彼女と比べて遥かに幼い自分を可愛がってくれていたから協会ギルドに置いてくれていたと思っていたドライアが、あろう事か〝半世紀前の死人(長たちの初孫)〟に似ているからという理由1つで手元に置いていただけだと知らされたのだから。


 そして何とも複雑な気持ちと面持ちで、どうにかこうにか返事だけは返してみせた少年から視線を外したドライアは。


「さて……ユニ、アンタが居れば足手纏いにもなれない雑魚を何匹か同伴したところで何とでもなるだろう? その子らも生半可な覚悟でここに居るわけじゃないだろうし、アンタの好きに使っておやりよ。 それでもいいね? 【銀の霊廟(グリトルス)】」


「もッ、もちろんです! 雑用でも囮でも何でもやります!」


「……」


 本題であるところの【銀の霊廟(グリトルス)】の同伴についてに話題を戻しつつ、とても後押ししているとは思えない誹謗中傷とともに『道具として扱えばいい』とさえ言われているにも拘らず、これといって反論もせず頭を下げる5人に、ユニは。


「……はぁ、解った解った。 勝手にしなよ」


「……ッ! ありがとうございます!!」


 面倒になったのか、【銀の霊廟(グリトルス)】の同行を許可した。


 死んでも文句は言うな、とでも言いたそうな面持ちで。


「さ、行ってきな若造ども。 生きて戻って来るんだよ」


「「「「「了解ッ!!」」」」」


「「「応ッ!!」」」


「は、い……」


 それから少しの会話の後、ユニの【通商術:転送(ポータル)】によって展開された魔方陣へ踏み入った彼らへ激励を贈ったドライアの前で【白の羽衣(スワンクローク)】が未帰還となった迷宮の入口へ転移した彼らだったが、ここでホドルムの仲間の1人がふと呟く。


「……ウチの協会長ギルドマスターは見送りに来なかったな」


「そういやそうだな、忙しかったンかね」


 竜狩人協会(D・ハンターズギルド)の長は見送りに来たのに、どうして自分たちが属する首狩人協会(B・ハンターズギルド)の長は見送りの一つもしないのか──と。


 しかし、そう思っていたのは彼らだけ。


「来てたよ、ラオークさん。 少し離れて様子を見てた」


「え、マジか? 何でまたそんな事……」


「さぁね。 それより、もう目の前だよ。 準備は良い?」


 ユニは、ラオークが物陰から見ていた事に気づいていたものの、どうしてそんな事をしていたのかなどという疑問を抱くよりもやるべき事がある筈だと全員に気を取り直させ。


「よし。 それじゃあ征こうか、【白の羽衣(スワンクローク)】を救いに」


 不安、恐怖、戦慄──負の感情こそ渦巻いておれど、それぞれの瞳に決意の光が宿っている事を確認できた為か満足げに頷いたユニに促され、サレスを先頭に10人が突入する。


 ……その一方。


「良かったのかい? 声の1つもかけなくて」


「良い。 彼奴らも一流、己が何をすべきかはワシが言わんでも解っておる。 決意に満ちた貌を見られただけで充分じゃ」


「……ふん、丸くなったモンだね」


「貴様ほどではないわ」


 ユニと同じく気づいていたらしいドライアが、スッと物陰から現れたラオークに〝見送りの是非〟を問いかけるも、ラオークからしてみれば陰から見守るくらいでちょうどいいと考えていたらしく、こんなにも正反対で、それでいて馬が合う、やはり夫婦ではあるのだろう2人の会話が続く中。


 ふと、ラオークが彼女の老いた瞳をしっかり見つめつつ。


「……ドライア、貴様──()()()()()()()()()()()()?」


 何とも意味深に思えて仕方がない1つの疑問を呈す。


 正気ではないのかもしれない、そう思わせる原因は1つ。


 死んだ初孫に瓜二つの、あの〝厄災〟の存在。


 長年連れ添ったと言うには互いに離れていた期間が長すぎるとはいえ、かつては愛し合った仲である事もまた事実。


 狂気に呑まれているなら掬い上げたいと思っていたが。


「? アタシはいつだって正気さね。 見りゃ解るだろう?」


「……なら良い。 では、また後日にの」


「あぁ、()()──サレスの帰還が待ち遠しいねぇ」


「……ッ」


 返ってきたのは、さも解っていなさそうな何気ない一言。


 この時点で、ラオークは全てを理解していた。


 そして、あの10人とは全く違う使命感にも満ちていた。


(……事と次第によっては、やはりあの厄災──)










(──この世から消えてもらわねばならぬやもしれんな)

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