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太陽が沈んだ後

 リューゲルの【息吹ブレス】とヒノモトの神の【旭日昇天アリアケ】の余波により、まだ虹の橋(ビフレスト)やスタッドの無事を確認する事はできないが。


『時間切れや、フェノミアちゃん。 お疲れさん』


「ッ、えぇ、またお願い……」


 ひとまず、ここに至るまで最も多くの時間を稼いだと言っても過言ではないフェノミアが呼び出した安倍晴明ハルアキラは元より半透明な身体を更に透けさせ、フェノミアを労いながら冥界に戻っていき。


「あっ、け、結界が、土埃が……!」


「うわっ! ごほっ、げほっ……!」


「風で飛ばしてくれよ魔導師ウィザード!」


 服で隠れている部分まで炭化してしまっていたフェノミアが、もはや己も現世から離れかけていた意識を何とか保ちつつ謝意を述べ、それと同時に【陸神封リゥシェンフーの陣】も解除されて土埃が観覧客たちを襲う中。


「治します。 もちろん、リューゲルさんも一緒に」


「何から何までごめんなさいね……」


 フェノミアに助力していた割には全く消耗している様子のないマリアは、フェノミアのみならず上空からゆっくり降下してきているリューゲルも含めて治療する余裕を見せ、今度はマリアへ謝意を告げたフェノミアの身体が治っていく。


 ……ついでに、スプークを含めた魔導師ウィザードたちをもマリアは治してやっていたが、それはそれとして。


「おいおい、それよりスタッドのオッサンは!? あの人、結界ん中に取り残されてたろ!? まさか、死んじまってんじゃ……!」


 ここで白の羽衣(スワンクローク)武闘家ファイターが、【陸神封リゥシェンフーの陣】はおろか【魔天牢スクレイピア】が健在だった時から内側に取り残されていた筈の立会人、協会長ギルドマスターかつSランク竜狩人ドラゴンハンターのスタッドはどうなったのかという当然の疑問に触れる。


 何しろ、ユニが身体を貸してまで行使したのは神の力。


 同じSランク狩人ハンターである筈の碧の杜(フェンサリル)でさえ、この有様。


 巻き込まれる事を予期してか、ある程度ちゃんとした防具を身に着けてはいたようだが、それでも見た限り迷宮宝具メイズトレジャーは装備していなかった為、死んでしまっていてもおかしくないというのが、ここに居合わせた者たちの9割方の意見である。


 とはいえ迷宮宝具メイズトレジャー玉石混淆ピンキリであり、それこそイージスくらいでなければ先の一撃を防ぐどころか防具としての最低限の機能すら果たせなかっただろうが──まぁ、それはさておき。


 武闘家ファイターは──……いや、この場に居る殆どの者たちはまだ理解し切っていない。


「ナメすぎだ、Sランクをよ」


「ッ、だが──……はッ?」


 緩やかに元の席へと着地し、マリアの治癒をその身に受けながらも笑みを湛えるリューゲルの言葉通り、SランクがSランクたる所以を理解し切っていない。


 だが現実問題──と反論しようとした武闘家ファイターの視界に。


 次第に晴れていく土埃の中から現れた、その男の姿が映る。


っっっっちぃなぁオイ……! 骨まで灼けてんじゃねぇか……!?」


「み、右手だけが重度の火傷を……?」


「嘘だろ? あん中で生き残ったのか……?」


 そう。


 ふー、ふー、とまるで布巾を忘れたまま熱した鍋に触れてしまった時のような軽いリアクションで、フェノミアのそれと同じように殆ど炭化していると言っても過言ではない大火傷を、どういうわけか右手だけに負っているという異様な状態のスタッドその人が。


 マリアを除く白の羽衣(スワンクローク)たちのみならず、この場に居合わせた殆どの者たち、それこそ同業者たる狩人ハンターたちまでもがどよめく中、『まぁ当然だな』とリューゲルは乾いた笑いを浮かべつつ。


「言ったろ? Sランクってのは化け物揃いなんだよ。 あのオッサンもそうだ、単純なATK(物理攻撃力)だけなら()()()()()()ですら足元にも及ばねぇんだからな」


「流石に技能スキルは使ったみたいだけれど、ね……」


 何とスタッドのATK(物理攻撃力)は【超筋肉体言語マッスルランゲージ】の二つ名に恥じず、つい先程までの殆ど全身が竜と化していた状態のリューゲルのそれすらも軽々と上回っているらしいが、それでも流石に技能スキルは使わねばならないと判断したようだというフェノミアの観察眼は正しく。


(あっぶねェなマジで……! 間に合ったから良かったが、俺じゃなかったら死んでたぞ!? ちったぁ加減しろっての……!)


 実際、彼はフェノミアが思っていた以上にギリギリのタイミングで、どうにかこうにか技能スキルを使う事で生き残れていた。


 武闘匠バトルマスター随時発動型技能アクティブスキルが1つ、【武神術:捨身(ノーガード)】。


 HP(体力)MP(魔力)、そしてATK(物理攻撃力)以外の能力値ステータスを0にし、その全てをATK(物理攻撃力)に集約させる事で一時的に爆発的な威力を物理攻撃にのみ持たせる事ができるようになる支援系技能サポートスキル


 元より常人とは異なる最高品質の筋肉を持って生まれた彼のATK(物理攻撃力)は、たとえ武闘匠バトルマスターを選んでいなかったとしても世界最高峰であった筈であり、それを【武神術:捨身(ノーガード)】で更に上限ギリギリまで強化した彼の正拳突きは、それこそ彼1人が助かるくらいの小規模とはいえ神の力を相殺するほどの威力を誇っていたのだ。


 ……まぁ、彼が無事かどうかも重要ではあるのだが。


 それよりも気になるのは、この鏡試合ミラーマッチの主役である虹の橋(ビフレスト)に属する4人の狩人ハンターの安否。


 おそらくユニは無事だろうし、【護聖術:無敵(インビジブル)】を発動させていた筈のトリスも生きてはいるだろうが、ハヤテとクロマはどうだろう。


 結界の外に居た碧の杜(フェンサリル)がここまで消耗するほどの衝撃を、結界の内側で直に受けていたのだから死んでいてもおかしくないし、むしろ死んでいなければおかしいとさえ思える。


 そして、ある程度の回復が済んだ魔導師ウィザードたちが観覧席の土埃を風で一纏めにして視界を晴らしていく中、スタッドについで姿が見えてきたのは。


「……ッ、ふ、うぅ……ほ、本当に、死ぬかと、思っ……」


「く、クロマちゃん……! 無事で良かった……!」


 スタッドと同じく戦いの中心からは離れ、後方から【銀白獄旋風メタルテンペスト】の制御に専念していた割には随分と消耗した様子のクロマだった。


 今この瞬間から寿命が尽きるその時まで最上位魔術ハイエンドスペルを使い続けても尽きる事はないと云われる無限の魔力を、ただただ己の身を護る事だけに費やした結果、生き残る事ができていたようだ。


 その身体に、フェノミアやスタッドのような火傷や炭化の痕は見られない。


 つまり消耗しているのは能力値ステータスに表れない、言ってしまえば〝精神力〟であり、無限の魔力があってもどうしようもない部分ではあったが、それ以外が無事である事を喜ぶべきだろう。


 これも全ては、トリスからの『護れ』という指示の真意をギリギリで察する事ができたがゆえの事であった。


 さて、クロマは生きていたが他3人は──と観覧客たちが修練場の中心、未だ晴れない土埃の中に居る筈のユニ、トリス、ハヤテの姿を探していたその時。


「「「──ッ!?」」」


 バオッ、という轟音とともに爆風が発生したかと思えば修練場の中心を覆い隠していた土埃が一瞬で吹き飛び、それを咄嗟に魔導師ウィザードたちが風で防いだ事で観覧客は阻害される事なく、そこに居た3人の姿を視界に映す。


 ……いや、もう少し正確に言うのであれば。


 2人と、1匹か。


「ユニもトリスも無傷……ッ! だが、ありゃ何だ……!?」


「何だも何も……ほら、あの化け蠍の……」


大鋏オオカナバシの、死骸……? 熱で融けて、中から、何か──」


 そこに居たのは、すでに何らかの技能スキルを発動する為の魔力を充填し終えて対峙している無傷のSランク2人と、おそらく至近距離で直撃してしまったが為に超硬質な甲殻が融解し、そして命を落としてしまったと見られる大鋏オオカナバシの死骸だった。


 ちなみに【忍法術:招来(クチヨセ)】で喚び出した獣は正確に言うと生物というわけでもない為、喚び出した個体が死んでも次に喚び出す時に別の個体を喚び出す分には全く問題ないのだが、それはさておき。


 商人トレーダーの言う通り、大鋏オオカナバシの死骸は今もなおドロドロと融解を続けており、その中からは体液や毒液が流れ出てはいたものの、それ以外にも何かが──……と目を凝らそうとした時。


「「「きゃあぁああああッ!?」」」


 彼よりも先に気がついた──……気がついてしまったファンクラブの女性会員たちが悲痛な叫びを上げた事で彼も、そして彼以外も気づかされてしまった。


「ッ!? は、ハヤテさん!? まさか、死……ッ!!」


 まるで萎れる直前の花弁のような形となっていた大鋏オオカナバシの死骸の中心、眠るように仰向けで倒れていたハヤテの状態を見た商人トレーダーはまさかと思い【通商術:鑑定(アプレイザル)】を発動させてハヤテのHP(体力)を確認しようとしたが、それは無駄に終わる事となる。


「……ッ、ぁ……」


 髪や服こそ被害を受けておらずとも、つい5分ほど前まで真っ白だった筈の柔肌が熱の影響でこんがりと蒸し上がり、幼さを残すその瞳は熱で沸騰したのか両目とも破裂していたが、そんな死に体でも呻き声を漏らしていたからだ。


「……生きてはいるみてぇだな。 大方、異変を察知した大鋏オオカナバシがハヤテを体内に隠して護ろうとしたんだろうよ」


「でも護り切れずに蒸し焼き、と……まぁ灰すら残らなくなるよりマシなんでしょうけどね……」


 この状況から鑑みるに、おそらくは──と前置きしつつ碧の杜(フェンサリル)が語ったハヤテの末路は完全に的を射ており、『まぁ保った方だろ』とリューゲルが素直に称賛する中。


「ッ、おい! あの2人、まだ何かするつもりだ!」


 観覧客の1人がそう叫んだ事で全員の視線が2人、ユニとトリスに集中する。


 そんな周囲の声や目など、もはや2人には蚊帳の外以下。


 まるで世界に自分たちしか居ないとでも言いたげなほど、互いの一挙手一投足にのみ注視していた2人の内、最初に口を開いたのはトリスであり。


「──……お前なら、()()()? 躱してくれるなよ」


「もちろん──さぁ、おいで」


 少なくとも、ユニにならば必ず伝わっているだろうという確かな信頼ありきの一方的な何らかの要求に対し、ユニはただただニコリと微笑みながら右の手袋を外し、人差し指に魔力を集中させていく。


「あれは……ッ! 聖騎士パラディン唯一の攻撃系技能アタックスキル……!」


「さっきもトリスが使おうとしてた──」


 その神々しい魔力を用いる技能スキルの正体を同業者たちは良く知っており、つい先程もトリスが発動しようとして遮られた攻撃系技能アタックスキルである事を見抜いた瞬間、2人はほぼ同時に動き出す。


「「【護聖術セイント:──」」


 かたや、聖なる魔力を溜め込んだ両盾で。


 かたや、聖なる魔力を集中させた人差し指で十字を描き。


「──白架クロス】ッ!!」


「──白架クロス】」


 迷宮宝具と、ただの指。


 普通なら、どちらを触媒とした方が優れているかなど論ずるまでもない、2つの聖なる純白の十字架が衝突した──。

『よかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思っていただけたら、ぜひぜひ評価をよろしくお願いします!


↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてもらえると! 凄く、すっごく嬉しいです!

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