2つの意味
「最初はのぉ……あの事件で空いた心の隙間を埋める為、人攫いに手を染めたのかと糾弾さえしかけたんじゃがな……」
「じゃ、じゃが……?」
そんな有様だった為か、それともドライアの精神状態を誰より知っていた為か、ラオークが真っ先に〝誘拐〟を疑ってしまったのも無理からぬ事ではあったものの、『糾弾しかけた』という事は実際に糾弾してはいないという事であり。
何故そうしなかったのか、とサレスが促してみると。
「その小僧が『挨拶を』と促されておそるおそる顔を上げおった時、ワシは2つの意味で〝処さねば〟と思うたのじゃ」
「2つの意味? それって……?」
ラオークが口にしたのは、『サレスを始末しなければならない』との判断に2つの意味を見出したという返答だった。
……その表情は、あまりに苦々しく。
言いたくないのだろうな、とサレスでも解っていたが。
さりとて聞かぬわけにもいかず、またも先を促すサレス。
するとラオークは一層深い溜息を吐きつつも顔を上げ。
「1つは単純に、ワシが貴様に恐怖したからよ。 〝殺意〟という悪感情、或いは〝殺人〟という罪禍そのものが人間の形を真似ておるようにしか見えんかった。 生かしておけば必ず〝災い〟を招くと思うたし、それは今でも変わっておらん」
「う……」
「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないですか……?」
「皆目知らん、ともかくそれが1つ目の意味じゃ」
元Aランクの首狩人としては認めたくないものの、およそ戦いとは無縁そうな子供を一目見た瞬間、人間相手に抱いていい類のものではない怖気を今なお抱かされ続けていると至って真面目に明かした事でサレスは居た堪れなくなり、ミノはそんな少年を庇おうとして属する組織の長に苦言を呈す。
……見た目だけは美少女っぽい美少年。
思わず味方をしたくなるのも無理はないのかもしれない。
尤も、中身はユニも認める才能を持つ殺人者なのだが。
「も……もう1つ、は……?」
「……もう1つは、のぉ……」
「? あ、あの……?」
そして、ショックを受けつつも残る1つの意味についてを問おうとするも、ラオークの口が更に固くなってしまい。
先ほどのように己の誇りを傷つけ得る以上に言い難い何かがあるのか? とサレスが困惑を露わにしていた、その時。
「別にいいんじゃない? ドライアさんは話してくれたよ」
「……彼奴が、貴様に……? そうか、ならば……」
どうやら2つ目の意味についてだけ、たまたまドライアから聞く機会があったらしいユニがそう言うと、ラオークは一瞬そんなまさかと信じられないものを見たような表情を浮かべたが、次の瞬間には憑き物が落ちたような表情に変わり。
覚悟を決めるかの如く、一呼吸置いてから。
「小僧、貴様があまりに──……瓜二つだったからじゃ」
「瓜二つ? 誰に、ですか?」
「ワシとドライアの──〝最初で最後の孫〟に」
「「……へっ?」」
そんな衝撃的な告白をし、サレスとミノが困惑する中。
かつて起きたという、〝とある事件〟の全容を語り出す。
『本っ当にしょうもない話だったわよね』
(それが人間だよ、アシュタルテ)
『……貴女が人間を語るのって、何かこう……』
(何?)
『いや、その……まぁいいわ』