懇願と条件
どうやらこの神官にとってホドルムという首狩人は友人や仲間というか、それ以上の憧れのような存在らしく。
「頼むって言われてもなぁ」
「……ッ、金なら持ってるだけ払う! だから──」
地面に手と膝をつき頭を下げるその姿勢には、野次馬たちも思わず息を呑むほどの真剣味を感じられたが、その懇願先であるユニにこれといった表情や態度の変化は見られない。
それでも諦め切れないのか、人間なら誰もが欲して当然な筈のお金で釣ろうとし始めた辺りでまたも制止の手が入る。
「馬鹿野郎、竜狩人相手に頭なンざ下げんじゃねぇ!!」
「でも、でも……ッ」
そもそも両者は敵対関係──……とまでは言わずとも良好な間柄にないのは間違いなく、いかに他国の人間とはいえ竜と首の力関係を明確にしかねない行為は止めねばならず。
「そもそも【輪廻する聖女】が行方知らずの今、〝3度目の生の約束〟は誰であっても不可能なんだ……そうだろう?」
「〜〜……ッ、う、うぅぅ……!」
ここまで言ってもなおか細い可能性に縋ろうとする神官を、もう1人の仲間がしっかり目線を合わせて親が子を諭すように現実を突きつけた事で、ついに神官の心が折れる。
「あ、あの、ボク……ッ」
そんな光景を見てようやく居た堪れない感情の1つでも湧いてきたのか、ホドルムとの決闘前までの気弱な面が顔を出してしまっていたサレスがおずおずと前に出ようとするも。
「君は何も悪くない、やるべき事をやっただけさ」
「う……は、はい……」
それはユニによって制止される。
当然と言えば当然だろう、ホドルムもサレスも互いを殺す気で仕掛けたのだし、そもそも『加減はしない、死んでも文句は言うな』と先に決闘の方針を示したのはホドルムの方。
文句を言うのも、謝るのも筋違いという事だ。
──閑話休題。
「さて、と……」
ホドルムの仲間たちが悲しみに暮れ、気まずさから野次馬たちが1人、また1人と修練場をそそくさと去る中、ユニは人知れず魔術師へと転職直後、【魔法術:支援】を発動し。
「【氷】、【命】、【時】。 最上級魔術、【遺健不氷命】」
「「「なッ!?」」」
「「「うおぉああッ!?」」」
3つの属性を纏わせる、いわゆる三重奏での最上級魔術が発動された瞬間、ホドルムを中心に氷河期を思わせる絶対的な冷気が発生、ホドルムの仲間や残っていた野次馬が突然の事態に混乱する中、冷気はホドルムの元へと集約していき。
「ほ、ホドルム……!? 何だ、これは……!!」
次の瞬間には、ホドルムの巨躯を内部に収めてもまだ余裕があるほど巨大な長方形の氷塊が顕現、外敵を寄せ付けない為の氷の棘のせいで近づく事もできない状態に成り果てたリーダーの姿を仲間が案じる一方、ユニが何気なく歩み寄る。
「彼の遺体を時間ごと凍結させた。 この状態で居る限り腐敗は進まないし、どれだけ期間が空いても蘇生は間に合うよ」
「だ、だが【輪廻する聖女】は今……」
その魔術は、どうやらホドルムの腐敗と蘇生の期限切れを防止する目的のものだったらしいが、どのみち今のホドルムを蘇らせる事ができる唯一無二の神官が行方不明となっている以上、無駄な行いなのではと進言せんとしたものの。
「そう、それだよ」
「「「……?」」」
さも、それを待ってたとばかりの返しをしてきたユニの笑みに、ホドルムの仲間たちは更なる疑念と胸騒ぎを覚える。
……何を口走ろうとしている? ──と。
「別に大した負担じゃないけど、この私が最上級魔術まで使ってあげてるんだ。 それの維持に条件をつけさせてもらう」
「条件って……?」
「そんな難しい事じゃないよ。 私やこの子と一緒に──」
そんな虫の知らせに反論するように、或いは補足するように告げられたのは、ホドルムの腐敗と蘇生の期限切れ防止目的の魔術を維持してほしいなら、自分たちとともに──。
「──【白の羽衣】の救援に向かってもらうってだけさ」
「「「はッ!?」」」
平たく言えば、【|輪廻する聖女《セイントオブオラクルの】を救えと要求した。