声から感じた充足感
──……結論から言おう。
リューゲルは、ユニ擬きの【旭日昇天】を相殺できた。
身体の一部だけを竜化させていた時とは違うリューゲルの本気の息吹は、流石に【旭日昇天】と同等とまではいかずとも充分にそれを抑え込む事ができるくらいの威力と規模を素の状態で誇っており。
そこへスプークを始めとした魔導師たちや、この場に居合わせた魔術職の狩人たちが状態好化を付与した事で、リューゲルの力は人間の領域はおろか竜の領域をも飛び越え、ついに神の領域へと到達する。
そして、リューゲルの息吹が【旭日昇天】と伯仲してから僅か10秒後。
実際に競り合っている彼にだけ、その異変にいち早く気づく機会が訪れた。
(……ッ!? 何だ、急に勢いが──)
天を衝くが如く立ち昇る【旭日昇天】の勢いが──。
(──落ちて、きてるのか……!?)
そう。
強まるのなら解るが、どういうわけか弱まってきているのだ。
押し合っている彼だからこそ解る。
ユニの身体を借りた神とやらは、まだ本気を出していない。
ユニは間違いなく、リューゲルより強い。
神の依代として、これ以上に適した人間もそうは居ないだろう。
その為、依代としたユニの肉体が保たないから本気を出せないという事も、おそらくない筈。
もちろん、ユニが本気を出すなと神に対して命じている可能性もなくはないが──……この切迫した状況では、いまいち頭も回らない。
一体どういう──と息吹を吐き続けつつも困惑を露わにしていた、その瞬間。
『──くくっ、よもやヒトの身で神に張り合わんとする阿呆が此奴以外に居ようとは思わなんだ。 尻尾を巻いて遁げ出すようなら民草ごと国を清めてやろうかと思うておったというのに』
『GU……ッ!?』
数十人近くが残っている筈の修練場で唯一、彼の鼓膜だけを確かに揺らした、その荘厳かつ揶揄うような声に込められた感情は──。
──……〝充足〟。
神は、リューゲルとの鍔迫り合いに満足していたのだ。
尤も、この神の言う〝清める〟とは清浄化──つまり1度この国の人間を国土ごと一掃してしまうという、まさしく神の如き所業の事だったのだが。
『まぁ、それはどのみち此奴に拒まれておったじゃろうが……貴様の尽力に免じ、此度は儂が退いてやろう。 また何処かで死合いたいものじゃ──』
『GURU──……ッう、お!?』
そもそも己の契約と交わしているユニの意向を完全に無視する事はできないし、リューゲルとの押し合いで充分に愉しめた為、今回は大人しく身を引くが次は互いに全力でやろうと一方的に約束させたかと思えば、いきなり息吹と競り合っていた筈の【旭日昇天】が完全に消失した。
脅威は消え去った──……と安堵するにはまだ早い。
(急に消えやがった……!? マズい、止めねぇとッ!!)
【旭日昇天】が消えたのはいいが、そうなると今度は彼自身の息吹が新たな脅威となるからだ。
『GO、Ooo……ッ!! OoooAaaa……ッ!!』
その為、すでに地上に向かって勢いよく吐き出し終えていた息吹を、それまで可能な限り勢いを強めて吐き出すべく凹ませていた肺を思い切り膨らませて空気とともに息吹を吸い込み、息吹袋へと戻し始める。
まさしく竜のような鋭い牙で己の魔力に噛みついて流動を止め、常人を優に超える肺活量で以て吸い込む。
その瞬間、地表に接触しかけていた息吹がピタリと動きを止めるとともに、つい先程までの【旭日昇天】と同じく立ち昇るようにして次から次へとリューゲルの口へと吸い込まれていき。
まるで、ウアジェトの機能の1つである〝巻き戻し〟による記録映像を観ているようだ──と国外に住まう者たちが観戦を続ける中、最後の1口分の息吹を麺類でも啜るかのように吸い込んで口に含み、そして呑み込んだまま静止した彼を観覧客たちは固唾を飲んで見守る。
もし暴発したら──そんな絶望的な想像が、この場から逃れられなかった者たち全ての脳内を支配していたその時、静止していたリューゲルが『はあぁぁ』と深めに息を吐いてから。
「──ご馳走さん」
緩やかに翼以外を人間に戻しつつ、パンッと両手を合わせてそう言った瞬間。
「「「う……ッ、うおぉおおおおッ!!」」」
「「「わぁああああッ!!」」」
修練場は、これでもかという歓声に包まれた。
生命の危機を回避できたのだ、それも無理はないだろう。
……だが、渦中の虹の橋はどうだろうか。
ついでに、最後の最後まで結界の中に居たスタッドも。
とても無事であるとは、思えないのだが──。
『よかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思っていただけたら、ぜひぜひ評価をよろしくお願いします!
↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてもらえると! 凄く、すっごく嬉しいです!