連れ立った先に
EXランクとFランクの邂逅から、およそ十数分後。
「あ、の……ユニさん……あっ、ユニ様……?」
「〝さん〟でいいよ、どうしたの?」
「えっと……ボクたち、どこに向かってるんですか……?」
普通に〝さん〟でいいのか、それとも〝様〟と敬った方がいいのかと今さらながらに葛藤中のサレスは今、縮小化したままの迅豹竜を抱えつつリュチャンタの街を歩いており。
何故、ユニが自分に会いに来たのか?
何故、竜狩人を辞めろなどと言ったのか?
何より、どこに向かって歩いているのか?
何も解らないまま連れ出され、何も解らないままどこかを目指して歩くというだけでサレスは不安でいっぱいな様子。
それも無理はないだろう、あれから一言二言ユニと会話した結果、Sランクとは現在の世界に10人しか居ない絶対強者を指すのだと知った事で途端に恐ろしく思えていたから。
また、ユニを見た時に感じた違和感の正体がハッキリしたからというのも大きかったようだが、それはさておき。
「言ったよね? 『竜狩人を辞めて欲しい』って。 今、私たちが向かってるのは君にとっての──〝再就職先〟だよ」
「再就職先……? それって、どんな──」
サレスとは対照的に機嫌が良い様子のユニ曰く、これから向かう先にあるのは竜狩人を辞める事になる──すでにユニとドライアの権限で強制的に解雇となっている事をサレスは知らない──彼の新たな就職先となる施設であるらしく。
それは一体、と当然の疑問を投げかけようとした時。
「──ほら、着いたよ。 さっそく入ろうか」
「……えっ? こ、ここって……」
竜狩人協会のリュチャンタ支部とは正反対の位置に存在する、あちらとは少し趣が異なる施設の前に2人が到着した。
……わざわざ竜狩人協会と正反対の位置に建てられたその施設が何かなど、もはや説明するまでもないだろう──。
「そう。 首狩人協会、リュチャンタ支部だよ」
ユニを始めとした竜狩人にとって同業者でありながら犬猿の関係でもある、首狩人の集会所となる施設だった。
……ちなみに、ちなみにだが。
別に、片方の協会の集会所にもう片方の協会に属する狩人が足を踏み入れる事自体に違法性はなく、ちょっと白い目で見られたり小さな諍いが起こったりといったハプニングを許容できるのならば、それ以外にこれといった問題はない。
しかし、それはあくまでも〝首狩人が竜狩人協会を足を踏み入れた場合〟と、〝低ランクの竜狩人が首狩人協会を足を踏み入れた場合〟からなる2例に限った話であり。
高ランクかつ特定の条件を満たした竜狩人が首狩人協会へ足を踏み入れた場合、法にこそ触れずとも厄介な事態が起こる可能性が非常に高く。
「……はッ? お、おい、アレってまさか……!」
「まさか、っつーか……いや、マジか……?」
「何であの人がここに……!?」
EXランク──世間的にはSランク──であり、その条件を世界で最も満たしていると言っても過言ではないユニの来訪は、それまで飲食を嗜んでいたりクエストを吟味したりしていた首狩人たちの視線を一挙に集める事となった。
そして、それぞれが得手とする武器に指をかけんとする者まで現れる中、ビクビクと辺りを見回しながら後を追うサレスを連れて何の気なしに步を進めるユニだったが──。
「──……おい」
「……」
「おい……! おいって! いい加減止まれや!!」
「……? 何かな」
1人の巨漢が立ち上がって声をかけ、それでも止まるどころか反応すらしないユニに痺れを切らし、ドスドスと床を踏み鳴らして立ち塞がってきた事で、やっと顔を向けるユニ。
「『何かな』じゃねぇよ馬鹿野郎! ここをどこだと思ってやがる!? さっさと回れ右しろ【最強の最弱職】! それともその〝首〟、貧乏人の為に置いていく気になったのか!?」
その素っ気ない態度が気に食わなかったのか、それとも元よりそうするつもりだったのか──おそらく後者──恐喝と捉えられても何の反論もできなさそうな語気の強さで巨漢がユニへと詰め寄る一方、サレスはそんなユニの後ろで。
(この人、強そう──)
じーっと、その巨漢の体格や背負う武器を見ながら。
(──〝5手〟くらい要るかも)
……〝何か〟を、脳内で模擬演習していた。