未帰還
──〝未帰還〟。
それは、協会を通してクエストを受けた竜狩人が期限を過ぎても迷宮から帰って来ず、それに対する連絡もない状態を指す用語であり、基本的には〝狩人の全ては自己責任、何があっても自業自得〟という謳い文句に則り、行方が解らなくなったからといって協会が自発的に何かをする事はない。
……が、そこにはいくつかの例外もあり。
クエストを受けたという事は、それを協会が発注するに至った起因となる依頼人が必ず居る筈で、その依頼人が身銭を切ってでも捜索や救援をと新たに協会へ頼む事もあれば。
未帰還となった狩人、或いはパーティー自体が協会や国にとって非常に有益な存在であり、予算を割いてでも救う価値があると判断した場合に、別のパーティーや協会専属の狩人を〝捜索隊〟や〝救助隊〟として派遣する事もあるという。
とはいえ、それらは例外と言うだけあって極めて稀。
飽和状態とまでは言わないが、この世界で最も栄えているという事も相まって代わりはいくらでも居り、わざわざ時間をかけて探したり助けたりするよりも新しく別の狩人》を雇った方が時間的にも金額的にも支払うコストは安く済むし。
予算を割いてでも救う価値のある狩人は、そもそも捜索や救援が必要な事態に陥らないという事もあり、実際に捜索隊や救助隊が派遣されるのは1年に2度くらいなのだとか。
……閑話休題。
「ちょっと信じ難いけど、まぁそういう事もあるのかな」
仮にもハヤテやクロマと同じ最後の希望の一角を擁するパーティーが未帰還になっている事を、『世の中に〝絶対〟なんてない』と知っているユニが疑問に思いつつ咀嚼する中。
「アタシゃ未だに呑み込めてないんだよ、何せ──」
ユニより先に事態を把握しておきながら、まだ信じていないらしいドライアは窓から見える街の景色を一望してから。
「──あのパーティーには、〝聖女〟が居る。 他の5人はともかく、あの娘がそう簡単にくたばるとは思えないんだ」
「……確かにね」
パーティーの副リーダー格と言うべき純白の少女について言及し、ユニも珍しく他者を認めるように彼女に賛同する。
──【輪廻する聖女】、マリア=ローゼス。
熾天使を従者とするユニを除き、三界の1つである天界への干渉を可能とする唯一の人間である為か、覚醒型技能でもない【神秘術:蘇生】で他者に3度目の生を与える事ができる唯一無二の神官にして、最後の希望の一角たる狩人。
そんな彼女を最後の希望たらしめているのは、他の神官では有り得ない〝2度目の【|神秘術:蘇生】〟だと思われがちだが、それはあくまでもマリアの真価の副産物でしかない。
これは何も【神秘術:蘇生】に限った話でも狩人に限った話でもないが、そもそも技能や魔術を発動する際には術者自身の〝意思〟が不可欠であり、〝遅効性〟や〝仕込み〟といった特殊な性質を付与させた場合を除いて、術者の意識がない状態で技能や魔術を発動する事は何者にも不可能である。
……しかし、マリアが自身を蘇生する時のみ。
回数制限もなく、全自動で【神秘術:蘇生】が発動し。
相応のMPは失えど、〝意思〟があろうがなかろうが関係なく全回復した状態で蘇るという不正行為じみた力を持つ。
つまり、いつか訪れる〝寿命〟までは決して死なない。
それが【輪廻する聖女】という神官の本質だった。
まぁ、だからこそユニでさえ信じ難いのだが。
「でも3週間前から未帰還って事は、もう捜索隊か救助隊は派遣したんだろう? まさか、そっちも駄目だったとか?」
そんなマリアを始めとした【白の羽衣】が国や協会にとって無益である筈もない為、すでに捜索や救援に長けた人材を派遣している事を前提とした疑問を投げかけてみたところ。
「いいや、未帰還にはならなかったけどね──」
はーっ、と悲嘆の意を示すように煙を吐いたかと思えば。
「その代わり、1人と1匹を残して壊滅したんだよ」
「1人と1匹? 竜操士か召喚士?」
未帰還ではなく僅かな生存者を除いて壊滅したのだと明かし、その数え方から人間1人と竜化生物1匹だと判断したユニからの再びの問いかけに、ドライアは首を横に振り──。
「Bランクの竜操士が従えてた竜化生物と──」
「──そいつに乗った、Fランクの盗賊さ」
「……ん?」
誰が聞いても、いくつかの疑問が残る答えで返した。