ある雨の日の出来事
ここからが新章です!
なお、次回から更新を4日に1度とさせていただきます。
ご了承いただければ幸いです。
Sランク竜狩人、【竜化した落胤】の活動拠点とも言うべきウィンドラッヘの空を黒く覆った雷雲との激闘から。
実に、3ヶ月ほどが経過したある雨の日──。
「足止めは任せろ! 【武神術:覇気】ッ!!」
「【増強術:攻勢】! 決めてください!」
「あぁ、一掃する! 頼むぞ、〝ロンゴミアント〟!」
とある国のとある村にて、とある5人の竜狩人パーティーが、とある竜化生物の群れとの戦いを繰り広げていた。
彼らが戦っているのは、〝粘蝸牛竜〟。
カタツムリを派生元とし、ある程度の降水量と湿度を伴う雨天の日にだけ活発に行動し、本領を発揮する竜化生物。
そうでない日は背負った殻が少し硬いだけの鈍足な雑魚であり危険度もEランクだが、あいにく今日は高湿度の雨天。
翼こそないものの、壁だろうと窓だろうと屋根だろうとお構いなしに張り付きながら放つ殆ど全方位からの息吹は、それこそ降りしきる雨のように被捕食者を襲う事となる。
しかし、今回ばかりは巡り合わせが悪かった。
「全員、ジャンプしろ! 【槍操術:雷針】ッ!!」
『『『NIIッ!? SI、AAAA……ッ!!』』』
雨天限定とはいえ危険度がCランク程度まで上昇していた彼らも、もう少し実績を積む事が叶えばBランクも見えてくるところまで成長していたCランクパーティーが相手では。
多少の抵抗こそ見せようと、殲滅される他なかった。
残るは、あと1匹。
「後はアイツだけよ! ずっと最後尾に居た大っきいヤツ!」
他の個体のLvが平均20〜30だった事を思うと、あのLv52の個体が群れの長だったのだろう事は間違いなく。
今の今までに高みの見物を決め込んでいたあの個体を討ち取りさえすれば、この戦いに終止符を打てる──筈だった。
しかし、次の瞬間──。
『I、III……ッ!! NIIIAAAA……ッ!!』
「ッ、逃がすな! そいつが群れのボスだ!」
「わぁってる! 待てやコラぁ!!」
ほぼ粘液と言って差し支えない肉体全てを背中の殻に閉じ込めたかと思えば、そのまま村の出口の方へと全力で転がり始め、それを〝遁走〟と判断した彼らは追撃へ移行したが。
「クソ、ヤべぇぞ! 思ったより速いぜアイツ……!!」
「翼はないから空には逃げられませんが……ッ」
「駄目だ、アイツを逃がしたら数を減らした意味が……!」
雨天だからなのか、それとも元々これくらいの速度を出せるのかは個体ごとによって違うだろうものの、時速で言えば60〜80kmは出ている以上、素の状態では追いつけず。
強化術師の付与を受けて初めて突き離されない程度の速度しか出せていない彼らでは、いずれ持久力が尽きるだろう。
(ちょっとでも回転に歯止めを掛けられれば──)
そんな中、唯一5人の中で地上ではなく民家の屋根に登って【弓】による後方支援を行っていたメンバーは、ほんの少し遅らせられれば仲間たちが追いついてくれる筈だと信じ。
貫く事は難しくとも、少しでも軌道を変えさせて遁走を完遂させまいとするべく、ギリッと弓に矢を番えたその時。
「──えっ?」
彼女の視界に〝何か〟が映り、一瞬だけ思考が止まる。
(【通商術:転送】? 何で今──ッ、いやそれより!)
それは、商人の技能によって顕現する転移用の亜空間であり、パーティーに商人が居ない以上、他の誰かが転移してこようとしているという事になるが、それはさておき。
「進行方向に【通商術:転送】! このままじゃ危ない!」
「はァ!? どこのどいつだ、こんな時に……!!」
「話は後だ、全力で止めるぞ──」
真っ先に伝えるべきは、その【通商術:転送】がよりにもよって逃げようとする粘蝸牛竜の真正面に顕現した事。
このままだと、あの亜空間から転移してこようとしている誰かと粘蝸牛竜が衝突し、まず間違いなく人間側が死ぬ。
狩人の全ては自己責任、何があっても自業自得。
しかし、防げる事故なら防ぎたいのが人道というもの。
その意思の下、5人全員が一丸となって各種技能を発動しながら駆け出し、全力で粘蝸牛竜を仕留めようとした──。
──……その瞬間。
『──LIッ!? NA、AAA……ッ!?』
「「「「「ッ!?」」」」」
ドゴッ、バキッ、という鈍い衝撃音。
つい先刻まで顕現していた【通商術:転送】の消失。
それらを皮切りに粘蝸牛竜の特攻にも似た遁走が停止。
何が起こったと5人の人間と1匹の竜化生物が奇しくも揃って戸惑う中、超高速で回転しつつ突進してきた巨大かつ頑強な殻を3本の指で摘んで止めた中性的な女性の声が響く。
「……? 何これ」