1週間後、宿屋にて
それから、ちょうど1週間後の早朝──。
ユニとしてはリューゲルとの会食を終え次第さっさと帰国したかったのだろうが、あれだけ大規模な討伐作戦の事後処理が1日やそこらで片付く筈もなく、各種手続きに加えて王族や貴族などとの顔合わせにまで駆り出され続けた結果。
(こんなに拘束されるとは思わなかったなぁ)
合間合間のレベリングさえ許されない慌ただしさに支配されてしまい、ユニとしては珍しく気怠げな表情を湛えながら、宿屋の一室の窓から射す朝日を浴びて背伸びする一方。
『はぁ……』
そんなユニよりも更に陰鬱とした空気を纏う悪魔が1柱。
魔界のNo.2、【悪魔大公】アシュタルテである。
何故、彼女がこうも落ち込んでいるのかと問われれば。
「まだ引きずってるの? 討伐勝負で下等生物に敗けた事」
『……解ってるなら言わないでちょうだい』
そう、リューゲルとの勝負における敗北が原因であり。
昨日、日を跨いだ瞬間にフュリエルから交代した彼女を労う意味でも宥める意味でもユニは酒と肴で悪魔をもてなし。
「つい数時間前まであんなに乱れてたのにね。 テクトリカが言ってたっけ、確か……そう、〝賢者タイム〟ってやつ?」
『知らないわよ、そんなの……』
色々な意味で、一夜を共にした。
そんなこんなでガス抜きは済んだからこそ、ぐっすりと眠る事ができていたというのに、起きてみたらこの有様だ。
……まぁ、とはいったものの。
アシュタルテの凹み具合などユニにとっては些事であり。
「まぁいいや、この国に居るのも今日が最後。 お土産を渡す相手も居ないし、このまま帰ろうと思うんだけど。 どう?」
『……好きになさいな』
「そう? じゃあ、さっそく──」
いい加減、夢を叶える為の行動に移りたいという欲でウズウズしていたユニからの〝帰国宣言〟を受けても『どうぞご勝手に』というスタンスを崩さないアシュタルテを尻目に。
昨日の内に宿泊料金の支払いを終えていた事もあり、さっさと帰ろうと【通商術:転送】を発動しようとしたその時。
「──……ん? あそこに居るのって……」
『何よ』
「ほら、見てごらんよ」
『……?』
ユニが、窓の外に居る何かを見つけた。
正確には、3階の角部屋の窓から見える宿屋の入り口に。
『な、何で……よりにもよってアイツがここに……!』
居たのだ。
アシュタルテを負かした、あの半人半竜の狩人が。
「見送りでしょ、今日辺り帰るって言ったから」
『余計な事して……!』
どうやら1週間前の会食時、事後処理の全てが片付く1週間後辺りには帰国すると伝えてあったが為の見送り目的のようで、シーツだけの淫靡な姿で嫌がる悪魔の顎に指をやり。
「行くよ、アシュタルテ。 敗者は黙ってついておいで」
『〜〜ッ! あぁもう、最悪の朝だわ……!』
惚れた弱みと敗者の常に付け込まれる形となったアシュタルテに、そうして愚痴りつつも従う以外の道はなかった。