EXランクの脅迫
サタン=クラウドを構成していた全て──。
事情を知らぬ者たちなら全く要領を得ていなかっただろうその言葉に、4人の長は目を見開きつつ椅子から飛び退く。
それが何を意味しているのか、瞬時に理解したからだ。
……理解できて、しまったからだ。
「もう察したみたいだね。 確かに無能じゃなさそうだ」
「「「「……ッ」」」」
そしてユニもまた、4人が看破した事を看破し。
ともすれば褒められているような言葉でも、今の4人にとっては〝死刑宣告〟も同義だったのか止まらぬ震えが襲う。
……サタン=クラウドを構成していた全て。
つまり、あの小さな球体の中には見上げても全貌を視認できないほど巨大な雷雲、雲羊竜の死骸があるという事。
もしも、それを持っているのがリューゲルだったとしたら4人は今ほど混乱や恐怖に陥っていなかったのだろうが。
何を言ったところで、それを持っているのはユニ。
もとい、【最強の最弱職】。
転職士が最弱職だと揶揄される所以、それは如何なる職業に転職しようと、あらゆる能力値が半減され、あらゆる技能や魔術の発動に必要なMPが倍になり、威力や効力も著しく低下するという、多少の利点では補えない欠点がある為で。
上述した通りリューゲルはもちろん、有象無象の転職士たちがあの球体を持っていたとしても何ら脅威ではなかった。
しかし今、4人の目の前に居るのは【最強の最弱職】。
最強の神官でもあり、最強の死霊術師でもある竜狩人。
あの中にあるという死骸を蘇生させられてしまったら?
そうでなくとも死骸を操られてしまったら?
……これは、〝脅迫〟だ。
Sを遥かに凌駕する最高位、EXによる──〝脅迫〟。
「まぁそういうわけだから、この場は〝これ〟と私に免じて一件落着って事にしてくれない? 駄目って言うなら──」
その後、自分たちを脅している張本人とは思えないほどにこやかに微笑むユニは4人の〝不満〟にトドメを刺すべく。
「──解るよね」
「「「「〜〜……ッ!!」」」」
そのたった一言で、この話し合いの場を完全に掌握し。
「……次の議題に移る。 方々への、損害賠償について……」
「「「……」」」
滞っていた話し合いを再開させるに至ったのだった。
……それから、およそ30分後。
怒気や不満の渦巻く最初の勢いはどこへやら、静けさに包まれた今回の話し合いで決まった大きな結論は──3つ。
・本作戦にて破壊された森林や土壌の回復は、4つの組織と傭兵たちが生態系の修復まで責任を持って行う事とする。
・当然だが雲羊竜に支払い能力がない以上、国や遺族、牧場など各方面への損害賠償はユニとリューゲルで折半する。
・相手が悪かったとはいえAランク狩人やそれに相当する者たちすら生き残る事ができなかったのもそれはそれで問題である為、ランク制度や後進育成の見直しを早急に行う。
以上が、誓約用の魔術によって締結された。
2つ目の損害賠償については優に億を超えていたが、かたや小国、かたや大国の国家予算級の財産を有しているというリューゲルとユニからすれば、そこまで懐も痛む事なく。
「──……では、これで以上とする。 ご苦労だった」
「よっし、飯でも行こうぜユニ。 奢るからよ」
「いいのかい? じゃあ、お言葉に甘えて」
随分と世話になっちまったし、と国でも有数の高級料理を奢る余裕すら見せながら退室しようとした強者たちに対し。
「……『───』」
警察官の長が俯いたまま呟いた、その小さな暴言を。
「よく言われるよ。 ねぇ、リューゲル」
「あァ、全く以て──不本意だがな」
「ひッ……!」
聞き逃してくれるほど、ユニもリューゲルも甘くはない。
数年近く言われ続けている暴言ともなれば、尚更。
瞬間、2人から発せられた技能でも魔術でも何でもない単なる威圧感で椅子から崩れ落ちる中年を尻目に踵を返し。
「かはは! じゃあな臆病者ども! せいぜい震えてろ!」
「次に見える時までに、据える胆くらいは用意しなよ」
さも興味なさげに去っていく2人の後ろ姿が消えゆく中。
「〜〜……ッ!! クソがぁッ!!」
床を殴りつける事しかできない己が、更に惨めだった。




