相剋する2つの光
ユニ擬きの【旭日昇天】と、リューゲルの【息吹】。
単純に、どちらの方が威力や規模が上なのかと問われれば。
前者、と答えざるを得ない。
そもそも相手は正真正銘の神。
競り勝とうと思う方が間違いなのだが、そんな事も言っていられない。
彼がやらねば誰がやる。
観覧客を、協会を、町を、国を──何より、ここまで頑張ってくれた相棒を護る為。
息吹袋へ溜めに溜め、息吹として解き放たれた魔力が。
……神の力と、衝突した。
瞬間、息吹に押さえつけられた【旭日昇天】は再び逃げ場を失い、フェノミアが死に体になりながらも安倍晴明とマリアの助力で維持し続けていた【陸神封の陣】が一気に膨張し、観覧席を圧迫する。
「「「うわあぁああああッ!?」」」
「「「きゃあぁああああッ!!」」」
避難するタイミングを逃してしまっていた観覧客たちが、あまりの異常な光景と、そこに居合わせているという事実を受け入れられないばかりに老若男女問わず悲鳴を上げる一方。
「フェノミアさん。 もう少しだけ保ちますか?」
「ッ、保たせないと、いけないのよ……!!」
『そうは言うてもなぁ、あと2分も保たへんよ』
「……リューゲルさん次第、というわけですね」
正直、マリアに問われるまでもなく限界寸前のフェノミアが張る虚勢に対して、2分はおろか1分保てば良い方だと安倍晴明は包み隠さず制限時間を明かす。
しかし、そもそも【陸神封の陣】を展開してからすでに3分ほどが経過しており、フェノミアでなければここまで保たせる事はできなかった筈。
ここから更に2分弱も保つのなら充分だろう。
マリアの言う通り、全ては彼次第なのだが。
そして、そんな渦中のリューゲルはと言えば。
「く、おぉぉ……ッ!! おぉおおああああ……ッ!!」
真下から天を衝くが如く迫り来る【旭日昇天】を、真上から降り注ぐ滝のような【息吹】で何が何でも相殺する為、今まで誰にも出した事も見せた事すらない全力で以て迎え撃つ真っ最中。
彼の口から吐き出されている息吹は、もはやLv100の迷宮を護る者のそれを遥かに上回っており、この場に居合わせている狩人たちの殆どが抵抗さえ許されずに消滅するほどの威力を誇っている。
技能も魔術も使わない素の状態で耐え抜く事が、そうでなくとも生き残る事ができるのは歴代最硬の聖騎士くらいのものだろう。
敢えて、もう1人だけ挙げるとするのなら。
それは、リューゲル自身。
実を言えば、この【息吹】。
素の状態で放つ事ができるのは間違いなく、この広い世界でもリューゲルだけなのだが、もう少し正確に言うと技能ありきなら何人かは放てる者も居るのだ。
もちろん、その者たちは竜化病の罹患者ではない。
とある職業に就き、その職業の適性がSランクであり、そして運良くとある随時発動型技能が覚醒した者たちであれば、それを放つ事ができる。
──【竜王術:息吹】。
〝竜操士〟と呼ばれる職業の随時発動型技能の1つ、1度でも耳にした事のある竜化生物の咆哮を模倣し、動きを止めたり追い払ったり、意思の脆弱な人間相手なら失神させる事も可能な支援系技能、【竜王術:咆哮】の覚醒型技能。
竜化生物しか持たない筈の特殊な内臓器官、息吹袋を一時的に魔力で作り出し、そこに溜めた魔力を息吹として放出できるのだが。
これもまた覚醒型技能、欠陥からは逃れられない。
喉の奥辺りに魔力で臓器を生成。
生成された息吹袋に魔力を充填。
充填された魔力を喉から口へと移動。
移動させた魔力を口内で成形。
成形した魔力を息吹として放出。
放出した息吹を舌や顔の動きで制御。
制御と放出を終えた息吹を縮小。
縮小に伴い息吹袋を緩やかに消失。
……といった流れを、ほんの少しでも失敗してしまうと。
充填していた魔力が暴発して喉から上が吹き飛ぶか。
本来、一時的に生成されていた筈の息吹袋が歪な形で身体に残り続け、竜化病を発症するきっかけとなってしまうかの凄惨な2択を強制される事となる。
しかし、それはあくまでも技能を使わなければ息吹を放つ事ができない者へ降りかかる欠陥であり、そういう生き物として産まれてきたリューゲルには殆ど関係がない。
……が、全く負担がかかっていないかというとそうでもなく。
「ッぐ、お"……ッあ、あぁああああああああ……ッ!!」
一瞬、時間にしてみれば1秒にも満たない超短時間ではあるがリューゲルの息吹が途切れて吐血し、その隙を狙ったわけでもないのだろうが更に勢いを増した【旭日昇天】を、リューゲルは再び迎撃する。
息吹とは本来、人間とは比べ物にならないほど頑強な肉体を持つ竜化生物にのみ許された唯一無二なる魔力の放出。
リューゲルとて普通の人間と比べれば、そもそも比較するのが馬鹿らしくなるほど頑丈なのは疑いようもない。
しかし、それは外側の話。
内側も多少なり頑丈とはいえ、竜化生物のそれには1歩劣る。
喉と、口。
息吹を放つ為に避けては通れない器官が灼けているのだ。
……彼は本能で理解している。
(あと、1分も保たねぇぞ……ッ!! いつまで続ける気だ……!?)
フェノミアと安倍晴明の結界が全壊するより先に、リューゲル自身に限界が訪れてしまうだろうという絶望的な事実を。
(クソが……ッ、あと少し、あと少しだけ助力がありゃあ──)
あと、ほんの少し魔力を足す事ができれば。
もしくは技能や魔術による状態好化でもあれば相殺し切る事ができるのにと、そう悔やみながら段々と突き上げてくる太陽の如き熱に全身が灼かれそうになっていた──……まさに、その瞬間。
「──……ッ!?」
彼の身体が軽く、そして強くなった。
誰かが彼に、技能か魔術で状態好化を付与したのだ。
(これは……【全能流強育】? 最上位の状態好化だが、どこのどいつが──)
おまけに、それは彼も良く知る最上位魔術。
HP、MP、ATK、DEF、INT、MND、SPD、DEX、LUK──今、対象に必要となる能力値だけを選別して限界まで底上げする最高峰の状態好化。
この状況で、そんな真似ができるのは──と視線を遣ったその先で、満身創痍になりながらも彼が居る上空を睨んで叫ぶ男が1人。
そう、彼は──。
「──ふざけるなよ【竜化した落胤】ッ!! 貴様この程度で折れる気か!? それでもあの勘違い女と並ぶSランク狩人なのか!?」
(ッ! 魔導師……!?)
この場で唯一の筆頭魔導師、スプーク=マジェスティだった。
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