メンバーの総意
Sランクは怪物。
Aランク以下とは格も次元も何もかもが違う。
「っ、だとしても──」
その事実を解っているからこそ認められない──……否、決して認めたくないハヤテは悔しげに八重歯で唇を噛みながらも反論しようと試みたが。
「その辺り、私とおなじSランクの君なら解ってくれてると思ってたんだけどね──〝トリス〟」
「……」
ユニはそれまで会話していたハヤテから視線を移し、ここまで沈黙を貫いていた純白の全身鎧から兜だけを外して金髪碧眼の美貌を惜しげもなく無表情にて披露する、トリスと呼ばれた長身かつ体格の良い美女に話を振る。
ユニによると、どうやら彼女と同じく世界に5人しか居ない竜狩人の頂点、Sランクらしいが。
話を振られたトリスは一瞬ハヤテに視線をやったものの、『あんたも言ってやんなさいよ』と顎の動きだけで伝えてきた為、再び視線の先をユニに戻してから口を開き。
「……私の〝聖騎士〟としての理想は、お前の盾となる事だ。 しかし……お前は現状、盾など必要としていない。 違うか?」
「そんな事もないけど……」
「だから私は、お前としばらく距離を置きたい。 もちろん私が抜けるという選択肢もあったが、それではハヤテたちの不満が解消されぬままだ──……解ってくれないか? ユニ」
「えぇ? いや、うーん……」
己の理想が、ユニを護って戦う事だと語りながらも現状それをユニ自身が不要としている以上、同じパーティーに居る意味があまりに薄くなっており、それを解消する為にも一度ユニと離れたいのだと、トリスはやはり無表情で諭す。
トリスは今、己を〝聖騎士〟と呼んだが。
この世界における狩人は皆、職業と呼ばれる能力を、それぞれが生まれ持つ〝適性〟を基に選ぶ事から全てを始める。
適性についてもまたランクと同じくF~Sで格付けされるのだが、それはさておき。
一切の知識や経験のない新米であっても最初から就く事ができる〝基本職〟が7。
その基本職から、とある1つの職業を除いた6つの職業のLvを30まで上げたうえで2つずつ組み合わせる事によって初めて解禁される〝合成職〟が15。
合計22の職業がそれぞれ5つずつ持つ固有の能力、〝技能〟を駆使してクエストをこなしていく事となる。
ちなみに聖騎士は15の合成職の1つ。
基本職に属する〝戦士〟と〝神官〟の組み合わせで解禁される、どの職業よりも『護る力』に長けた前衛職。
6年前、適性が判明するよりも先に聖騎士となる事を、そしてユニの盾となる事を望んでいたトリスにしてみれば、聖騎士への適性が人類史上においてさえ類を見ないほど優れていた事は願ってもない幸運だっただろう。
加えて言うと、ユニは別に盾を必要としていない事もない。
実際、助けてもらった事も1度や2度ではないからだ。
尤も、その逆は数え切れないほどにあるのだが――それはそれとして。
そんな職業事情よりもユニには気になる点があった。
「……ん? たち?」
そう、トリスは言ったのだ。
ハヤテたち、と複数人を指して言ったのだ。
まるで、残る1人のメンバーもハヤテと同程度の不平不満を抱いていると言わんばかりに。
「〝クロマ〟、君も何か不満が?」
「え、ぼ、ボク……?」
ゆえに、トリスよりも更に長く口を噤んでいた黒と青が基調のローブと黒のセミロングが特徴の、そして傍の立て掛けている2本の白と黒の〝杖〟からも解る後衛職の〝クロマ〟という4人の中で最も背が低く、最も気が弱い美少女に話を振る。
その確かな実力とは裏腹に僅かな物音にもビクッとしてしまう小心者な彼女の事だから、もし不満があっても言い出せないだろうと思っていたし、それを盾にして離脱を持ち掛けてくるなんて大胆な事はできないとユニは思っていたのだが。
「ボクは、その……子供の頃から、ずっとユニの陰に隠れてばっかりで……せっかくAランクになったんだし、そろそろユニ離れしなきゃって、そう思って……うぅ、その……」
「あぁ、そういう……」
どうやらクロマの場合はユニへというより自分へ向けた不甲斐なさから、親離れならぬユニ離れしなければならないと彼女なりに熟考した末の結論だったようで。
孤児院で暮らしていた頃から気が弱く、これといって害意はなかった筈の男の子に話しかけられるだけで驚いてユニの後ろに隠れていた時の事を思い返し、まぁ他2人に比べれば筋は通ってない事もないのかな――とユニが思索に耽る中。
「とにかく! これで解ったでしょ!? あたしたち3人全員の総意だって事が! だからユニ、あんたは今を以て虹の橋から──」
間違いなくユニ以外のメンバー全員が、理由こそ違えど『ユニの離脱』を望んでいるのだと思い知らせる事ができたと確信したハヤテは、まるで鬼の首でも――いや、この世界においては竜の首でも取ったかのようなドヤ顔で指を差しつつ、もう決定事項なのだとばかりに改めて離脱宣告を突き付けようとしたのだが。
「――もうじき日も暮れるって時に、ぎゃあぎゃあ喧しい小娘が居んなと思って来てみりゃあ……」
「っ、あんたは……!」
それは、ずんずんという重く鈍い音を立てて階段を下りてきながらあからさまにハヤテを狙って毒を吐く、腹の底まで響くような低音の男声によって遮られてしまう。
その声の主は、この協会で竜狩人となった者なら誰もが知っている。
優に190cmを超え、均整は取れていても衣服では隠し切れない隆々とした筋肉が目を引くその壮年の男性は。
「随分とまぁ面白ぇ話してんじゃねぇか。 俺も混ぜろよ」
「〝協会長〟……!!」
正真正銘、この町の竜狩人協会の長であった。
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