じゃあ、君は?
一方、『静かにしてて』とユニに注意された為に〝お口チャック〟し、すっかり手持ち無沙汰となっていたテクトリカがユニの言葉に釣られるようにして視線を上に向けた途端。
『──うわ、え?』
彼女の視界に、〝それ〟は映った。
『ねぇゆにぴ、ヤバくない? アレ……』
冥界のNo.2をして『ヤバい』と言わしめるほどの危険性を孕んだそれが今、遥か上空より地上目掛けて落ちてきている事に、いつもの余裕をなくしたテクトリカが袖を摘むも。
「信じ難いかもしれないけど、リューゲルは──あの半人半竜は、あえて自分から上空へ吹き飛ばされる事を選んだ。 今の君を穿つに足るだけの、〝致命的な一撃〟を見舞う為に」
『GU、BALUUU……ッ!?』
ユニはそんな死霊を無視しつつサタン=クラウドの目の前に文字通り接近、さも追い討ちをかけるかの如く〝先のトドメが不発に終わっていた事〟と〝全てはリューゲルの目論見通りに進んでいた事〟を告げ、サタン=クラウドは狼狽える。
もしや、と思っていた推測が当たってしまった事もそうだが、しょせん推測は推測、あの手応えがリューゲルによって誘き出されたものだったなど、信じたくなかったからだ。
「あぁそうだ。 テクトリカ、撮っててもいいけど私の後ろにおいで。 その位置だと衝撃の余波だけで消滅しかねないよ」
『そーなの? じゃ、失礼しゃーす』
その一方、ユニは撮影中のテクトリカを手招きする。
テクトリカの実力を鑑みれば本当に消滅するとは思っていないものの、まともに食らったなら先のアシュタルテと同じ活動限界を迎える羽目に、と確信していたからこその提案。
それを知ってか知らずか、テクトリカは誘われるがまま。
「抱きつけとは言ってないんだけど……まぁいいや」
後ろから『ぎゅっ』とユニに抱きつき、さも『準備できたよ!』と得意げな顔をするものだからユニも毒気を抜かれ。
「【音】、【風】──合成、【凪】」
「【正】、【負】──合成、【反】」
これといった苦言を呈する事もなく技能の発動に移行し。
「【魔法術:防御】──【禁定守封閂】」
魔術師の技能を用いての、最上級魔術を発動する。
その瞬間、サタン=クラウドの巨体が堅牢な錠前と鎖によって封じられた巨大な球体に閉じ込められると同時に。
『ッ!! ────ッ、──────……ッ!?』
今までサタン=クラウドを押さえつけていた漆黒の爪が一瞬で消滅したのを好機と見るやいなや、ありったけの力を込めて全身という全身から渾身の雷撃を放ってみせたものの。
壊れるどころか、ヒビも焦げ目も見当たらない。
何度も何度も試したが、どうやっても結果は同じだった。
それも必然、この魔術の真価は〝閉じ込める〟事にあり。
外側は子供の投石でヒビ割れるほど脆い代わりに、内側は白色変異種の息吹や黒色変異種の一撃に耐え得るほど硬い。
そういう制約のもと、存在している結界なのだ。
今のサタン=クラウドは、【可逆圧縮絨】の効果もあってINTどころかATKも並外れた数値まで上昇しているが。
それでも、【禁定守封閂】を破壊するには至らない。
普段なら、たかがと見下す人間1人の魔術を──。
「そっちの声は聞こえないけど、こっちの声は聞こえるだろうから教えてあげよう。 アレは【五竜換装】における最強にして最凶の形態、〝隕撃竜〟。 落下時の衝撃は、まともに直撃すれば私でもただでは済まない。 じゃあ君は──ね?」
『〜〜ッ!? ──ッ! ────ッ!!!』
そんな絶望的状況に陥った羊に追い討ちをかけるユニ。
張本人から聞いたのか、どこかで誰かから噂程度の情報を仕入れていたのか、それとも実際に食らった事があるのか。
それはユニのみぞ知るところであるが、ともかく。
その言葉の先は、言われずとも理解できた。
避けられぬ死が口を開けて待ち構えている事も──。