いつまで〝空〟に居るつもり?
『──……oOOOOOOOOOOOO……ッ!!』
2匹の強者を討ち取ったがゆえの、歓喜と誇りに満ちたサタン=クラウドの咆哮は今なお戦場に轟き続けていたが。
その咆哮には、歓喜と誇り以外の感情も含まれていた。
それは──〝鼓舞〟、或いは〝戒め〟。
すでに討ち取ったあの2匹も、ここまで強くなった己になお比肩するほどの強者であった事は疑う余地もないだろう。
しかし、これまでの戦いで全くと言っていいほど手を出してこなかった1匹の存在が、あまりに気掛かりだったのだ。
直接その力を振るわれたわけではないものの、技能も何もない威圧だけで最大限の警戒を強いられるほどの〝何か〟。
先に天へと吹き飛ばしたあの成り損ないと同じ生物である筈なのに、とてもではないが勝てる気がしない〝怪物〟。
……もしも己の目が節穴で、あの2匹が敗北した時点で逃亡でも図ってくれていたら悩む必要などなかったのに。
今、当のユニは平然と視線をサタン=クラウドから外しつつ、卓越した並列思考を駆使して戦い方を模索しており。
それは、とても逃亡を選択肢に入れている者の風体ではない、とサタン=クラウドがいよいよ覚悟を決めようとした。
──その時。
「ねぇ、君」
『……ッ?』
怪物が、声をかけてきた。
無論、Lv100ともなれば人語を操れこそしないものの解する事はできている為、『君』が己を指している事は解っているが何を言い出すのかが解らず、ただただ警戒する。
奇しくも先ほどのリューゲル同様、〝何をされても対処できる位置取りと加速の用意〟を心掛けていたのも束の間。
「いつまで〝空〟に居るつもり?」
『……?』
ユニから告げられたのは、意図も掴めぬそんな一言。
そりゃあ確かに、あの怪物からすれば常に見下されているようで気に食わないのかもしれないが、そんな事を言われても翼があるなら制空権を得るのは当然の判断である筈だし。
『……LA、BAA──』
それを敵に咎められる筋合いなどあるわけもない以上、一先ず遠距離攻撃の1つでもと雷撃を放とうと試みた──。
──その時。
「──まずは目線を合わせるところから始めようか」
『O、O"Oッ!? AAAAAAAA……ッ!?』
突如、サタン=クラウドが苦悶の咆哮を轟かせる。
新たに紡がれたユニの一言を皮切りに。
己が何をされたのか、サタン=クラウドは解っていない。
ただ1つ確かなのは、今や戦闘機に等しい形状へと変異した大翼のみならず、雲が如き羊毛の浮力と、雷による電磁力と、息吹による重力と重量の操作によって、〝空中に居続ける力〟が過剰なほど強い筈の巨躯が墜落しかけている事。
より正確に言えば、何かに吸い寄せられている事。
己の真下に、おそらくあの怪物が顕現させた〝何か〟に。
一方、当の張本人は妖艶なる笑みを貼り付け──。
「せっかくだから存分に体感すると良い──〝神の力〟を」
聞こえているかも解らない、そんな呟きをこぼした。