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天まで届け

 翼長こそ倍以上に広がったが、全長自体は変化なく。


(翼が妙な形になっただけ──……なワケねぇよな)


 楽観視する事もできなくはないものの、まずそれはない。


 何しろ、今のサタン=クラウドの翼からは唸り声どころか息吹を乗せた咆哮さえ掻き消すほどの甲高い轟音が鳴っており、この世界では耳にする機会もなさそうな破滅的な音にリューゲルの危機察知能力は全力で警告の鐘を鳴らしていて。


(とにかく、何をされても対応できるように警戒を──)


 しかしながら〝逃亡〟などという惨めな選択肢など選ぶわけにもいかぬ為、先ほどのような隙を晒さないようにと。


 彼は、ここに至るまでにおいて最も集中していた。


 ……そう、最も集中していた筈である。


 だが、次の瞬間──。


『──は?』


 サタン=クラウドの巨軀が、視界から完全に消えた。


 徐々に薄れゆく甲高い轟音を、この戦場に残したまま。


(片時も目ェ離してねぇぞ!? どこへ消え──)


 目を離すどころか瞬き1つしていない彼の視界から、あの巨軀が一体どうやって消え、どこに行ったというのかと。


 辺りを見回そうとした──まさに、その時。


『──BALUALUAAAAAAAAAAAAッ!!』


『う"ッ!? お、あ"ぁああああああああッ!?』


 前後でも左右でも、ましてや真上でもなく、あろう事か彼の真下に居たらしいサタン=クラウドが、そのまま彼を連れて天空へと消えんばかりの勢いで上昇していくではないか。


(コイツ、いつの間に真下へ……!? いくら何でも……!!)


 サタン=クラウドが【可逆圧縮絨リバーサルジップ】を発動してから最初に行った突進による攻撃は、ギリギリだが回避できていた。


 無論、雷撃も同様だ。


 なのに、今のは全く見えなかった。


 真下への移動も、その位置からの急上昇も。


 単なる高速移動では説明がつかない、何か絡繰があって然るべきだろうと、こんな状況でもなお思考を停止させなかったリューゲルを称賛するかのように、その可能性が浮かぶ。


(まさか、重力操作と加重を自分に……!? そこに雷の速度が加わりゃあ、俺の動体視力で捉えられないのも納得──)


 そう、リューゲルにもアシュタルテにも通用しなくなった事で無意識に対処が必要な攻撃における優先順位を落としていた、サタン=クラウドの〝重力操作〟と〝加重〟。


 あの2匹に効かないなら、こちらを強化する術として利用すればいい──と、Lv100特有の高い知能を駆使して思い至ったサタン=クラウドは、リューゲルの憶測通り自身の重量を段違いに増加させる事で急降下した後、加重を解いて軽くなった自身の肉体による飛行を重力操作で更に加速。


 天まで届けと言わんばかりの急上昇を可能としたのだ。


 ……といった憶測が正しいのなら、この結果もまぁ──。


(──してる、場合じゃねぇ……!! このままじゃ……!!)


 などと腑に落ちている余裕も猶予も今の彼にはない。


 とはいえ、どうにかこうにか脳内で練った対抗策を行使しようにも、指1本動かせぬほどの重圧が彼を襲い続ける。


 もはや、手詰まりか──……と。


 彼が凡百の狩人ハンターなら、そんな風に諦めていた事だろうが。


(……そうだ、どうせ抜けられねぇなら──)


 彼は、ユニをも超える〝適応能力〟の持ち主。


 どんな状況下にあろうと、どんな敵が相手だろうと。


 勝ち筋の模索を、中断したりはしないのだ。


 そして、この危機的状況だからこそ可能な突破口に脳内でのみ辿り着いたリューゲルは、ニヤリと口を歪めた後。


『ク、ソ……ッ、があぁああああああああ……ッ!!』


 わざとらしい断末魔を上げながら、吹き飛ばされた。


 ともすれば、人類には到達不可能な領域まで──。


『〜〜ッ!! BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……ッ!!!』


 それを見届けた事で勝利を確信したのか、サタン=クラウドは今までとは違う歓喜と誇りに満ちた大咆哮を轟かせ。


 討伐勝負は御破算、Sランク狩人ハンターと魔界のNo.2がおそらく戦闘不能となったこの絶望的状況の中、ユニはと言えば。


「んー、どれにしようかなぁ」


 ただ、どの手札を切るか──それだけを考えていた。

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