悪魔大公の懸念
一方、思索を広げていたのはリューゲルだけではない。
アシュタルテもまた、戦いながら思案していた。
(……企んでるわね、ちょっと他と違うだけの人間風情が)
尤も彼女の場合、競合相手が何らかの〝切り札〟を隠している事を察した上での〝対抗策〟を練っている形だったが。
当然、彼女にも切り札はある。
リューゲルのそれにも劣らぬ〝最終兵器〟が。
ただ、その切り札はおいそれと使用する事ができない。
リューゲルのように〝溜め〟が必要とかそういう事はないものの、リューゲルのそれより問題なのは──〝影響力〟。
威力そのものも充分すぎるほど強いらしいが、その最終兵器を放った後の大地には一切の植物が芽吹かず、その一帯には一切の生物が棲めなくなり、生態系も破壊されるという。
……が、しかし。
正直言って、『だから何?』という気持ちの方が強い。
今はユニの従者でもあるとはいえ、彼女は魔界の住人。
この世界がどうなろうと知った事ではなく、あの生意気な半人半竜を下せるならば生態系の崩壊くらい何だというのかと、とても人間に仕える悪魔とは思えぬ心構えで居たが。
『アレは駄目だよ、アシュタルテ。 後始末が面倒だからね』
『……解ってるわよ』
この勝負が始まる寸前、彼女はユニに釘を刺されていた。
取り返しが付かないから──ではなく、あくまでも『誰が尻拭いすると思ってるの?』という脅しにも似た忠告を。
ゆえに今回、彼女は切り札なしで勝利せねばならない。
加えて、〝時間〟という全く別方向の問題もある。
開始からしばらく4つの組織に戦闘行為を譲っていた関係上、彼女たちが戦い始めるまで割と時間が経過していた為。
そろそろ、アシュタルテの出番が終わりかけていて。
次に控える死霊卿が強制的に現れてしまう。
そうなれば、アシュタルテの敗北になってしまうし。
おそらく、テクトリカが雲羊竜を斃してしまうだろう。
ユニがそれを許すかは別として。
そうなる前に、決着をつけなければならない。
と、色々な懸念に片を付けた──……その瞬間。
『おい!! 何を呆けてやがる!!』
『は? 何言って──』
突如、彼女を案ずるようなリューゲルの怒号が響き渡る。
もちろん呆けていたつもりはない。
思索を巡らせながらも攻撃は続けていたし、雷撃や重力に対しては【悪魔の欺瞞紙】での対処を進めていたのだから。
……いや、それゆえにと言うべきか。
彼女は呆気に取られてしまう事となる。
『──えっ』
次の瞬間、眼前にサタン=クラウドが現れたからだ。
50mほどの距離を空けて戦っていた筈なのに。