半人半竜の突破口
リューゲルは右の翼、アシュタルテは左の羽。
飛行手段の要を貫かれるという、ともすれば空中戦の続行が不可能になりかねないほどの傷を負った1人と1柱だったが、そこは流石のSランク狩人と魔界のNo.2たる悪魔。
持ち前の再生力で以て、すぐさま全速力での飛行に移っても問題ないところまで修復したものの、その表情は深刻。
今は傍観者となっているユニも同じ選択をしただろう事は間違いないとはいえ、それは【最強の最弱職】基準の話。
両者ともに各々が生きる世界における最高峰の実力者である事は疑いようはなくとも、しょせんは最高峰止まり。
正真正銘の〝頂点〟には、僅かに届かない──。
『BALUBALUBALUAAAAAAッ!!』
『うおぉ!?』
『く……ッ!!』
誇張抜きで、その雷撃は両者の反射速度を凌駕しており。
放出される瞬間、1秒にも満たないが確かに存在する〝溜め〟を見極められているからこそ、どうにかこうにか紙一重での回避を成し遂げられてはいるが──……それだけだ。
全身に貼り付いているのではないかと思うほどに収縮した雷雲から放出される雷撃は、その軌道も重力で大きく歪み。
直線状かと思えば鋭く曲がり、一点へ集中させるのかと思えば扇状に広がり──と、枚挙にいとまがないのが現状で。
(自業自得とはいえ、これ以上は……どうしたモンか)
この状況を招いた主犯、【竜化した落胤】も流石に悩む。
下に【最強の最弱職】が控えている以上、仮に自分たちが敗北し、その末に殺されたとしても国に被害はない筈だし。
何だかんだと言っても根は優しいから、きっと『興味ないのに』なんて愚痴りつつも牧場の方も気にかけてくれる筈。
それゆえ死んでも問題はないのだが、お互い他人には言い難い秘密を抱え合う形でパーティーを組んでいる相棒、フェノミアを遺してしまう事を思うと、やはり死は避けたい。
……一応、〝突破口〟はなくもない。
リューゲルが誇る唯一無二の能力、【五竜換装《ドラ=コンバート》】。
未だ見せていない最後の形態による攻撃は、当たりさえすれば【人型移動要塞】すら一撃で沈めると断言できるだけの威力を持ち、他はともかくDEFやMNDでトリスに勝っているわけがないサタン=クラウドも例外ではないだろう。
じゃあ最初からやれよ、という言い分は良く解る。
しかし、その形態に変異する為には〝隙〟が必要なのだ。
強者同士の戦いともなれば1秒の隙さえ命取りだというのに、その形態への変異完了には実に1分近くも要する。
そんな致命的な隙を、あの怪物が晒すわけもなく。
そんな致命的な隙を、こちらが晒すわけにもいかない。
加えて、その形態の攻撃は途轍もなく広範囲に影響し。
もし、ここにまだ2人と1柱以外の人間や竜騎兵用の竜化生物が生き残っていたとしたら、それらを気遣うがゆえに発動しなかっただろう事を思えば、〝場所〟というもう1つの要素についてはすでに満たしていると言えなくもないか。
いよいよとなれば、彼はそれを発動するつもりでいる。
ただし、それには第三者の協力が必要不可欠であり。
この場で言えば、【最強の最弱職】か【悪魔大公】。
競争相手である以上、後者の選択肢は存在しないも同然。
そうなるとユニしか居ないが、こちらも難しい。
もう、約束してしまったからだ。
もし自分たちが敗北したら戦ってもいい──と。
つまり、彼がアシュタルテに勝利する為に必要な過程は。
1.両者ともに一旦の完全敗北。
2.ユニが動き出すのを待機。
3.敗北したフリして残していた余力を消費。
4.言葉なしでも合わせてくれる事に期待した形態変異。
5.助力ありきだが、リューゲルによる独力での討伐。
という事になる。
……正直、上手くいくかはかなり怪しい。
まだ見ぬ切り札を行使したアシュタルテが先んじて討伐してしまうかもしれないし、ユニが協力してくれるかも不明。
しかし、それでもやるしかない。
何しろ──。
『──やれなきゃ、死ぬだけだもんな』