雷の雨を撃墜せよ
『Baaa……』
……雷雲は、ほんの少し苛立っていた。
毛の膨張も順調に進み、このままいけば己の角を傷つけた不届き者はもちろんの事、脆弱でありながら羊毛や肉の価値は高いという、あまりに理不尽な種に産まれた、或いは現出したせいで狩られ続けてきた過去の同胞の無念を晴らす事すら可能やもしれない──そう期待していた折の、邪魔立て。
『Baaa……ッ』
雷雲は、ほんの少し──……否、相当に苛立っていた。
それゆえの、驟雨が如き落雷。
その一撃は大地を抉り、あらゆる生命を消し炭にする。
そんな雷撃を放置したまま戦うなど、あまりに無謀。
その為に先んじて動き出していたのが──竜騎兵。
「「「3、2、1──撃てぇッ!!」」」
『『『GROOOOッ!!』』』
降り注ぐ雷の威力が最も落ちる瞬間を狙い定め、カウントと号令を理解した竜化生物たちが雷を撃墜、或いは撃墜できずとも弱体化させて限りなく無害にするという、これから雲羊竜と戦う事になる狩人たちの後方支援に徹し始めており。
「その調子です! 決して驕らず、最低3匹以上で相殺を!」
「「「はッ!!」」」
もちろん1発の雷につき1匹の竜化生物で対処できるのが理想ではあるが、現実はそう甘くないのだから致し方なく。
驟雨が如きと言うからには、とても100余名の竜騎兵だけでは対処し切れず素通りする一撃もあって当然であり。
「!? しまった、お二方──」
瞬間、剃刀の如く鋭い軌跡を描き降り注いだ2発の雷が6発もの息吹を擦り抜けたかと思えば、よりにもよって竜騎兵の奮闘を見守っていたユニとリューゲルの方へ落ちていく。
対処できぬとは夢にも思っていないが、それはそれとして自分たちの落ち度のせいで、この戦の要である2人の手を煩わせる事自体がマズいのだとばかりに動揺していたものの。
そんな彼女の心配や動揺は、全く以て無意味だった。
「はッ?」
何しろ、『ぺしっ』という間の抜ける音が聞こえてきそうなほど軽い動作で、2人が雷を片手で叩き落としたからだ。
片手、というか片手の指だけで。
竜騎兵は、3匹がかりで1発を対処しているというのに。
だが、2人は2人で強者なりに思うところもあるらしく。
「爪が痺れてやがる、やっぱ雑魚じゃねぇなアイツ」
「Lv100の逆角個体ともなればね」
指の魔力伝導率を任意でゼロにでき、完全に無力化したユニと違い、リューゲルの指──というか爪にはビリビリ、バチバチと音を立てて弾ける電撃が纏わりついており、やはり迷宮を護る者かつLv100の特殊個体ともなると、元の危険度がFとはいえ流石に強敵認定せざるを得ないようだ。
尤も、リューゲルの肉体もまたユニには及ばずとも魔力伝導率は人類を遥かに超えた約300%ほどであり、そう考えればかの雷雲を強敵認定しない者など居ないだろうが──。
……それはそれとして、彼女はふと思う。
(もうあの2人だけで良いのでは……?)
──と。