何なら4つの組織より
……あくまでも、あくまでも一般的な印象だが。
傭兵という職業を選ぶ者たちとは、狩人にも竜騎兵にも警察官にもなれず、それ以外の道がなかった落伍者であり。
実力そのものは一般人に毛が生えた程度の弱卒集団。
その日暮らしの者も多く、身だしなみとはあまりに無縁。
それでいて金銭にはがめつく、どこへでも首を突っ込み。
かと思えば命が危ぶまれるような事態に直面した途端、身勝手に契約を破棄して戦場から脱兎の如く逃げ出す卑怯者。
……と、ここまで散々貶してきたものの。
今、警察官の代わりに動いている彼らの働きを見ると。
〝一般人に毛が生えた程度の弱卒〟とは思えず。
何なら4つの組織に属する者たちより優秀に見える。
〝卑怯者〟ではあるのかもしれないが、それはともかく。
上述した通り、それらはあくまでも一般的な印象での話であり、実際には傭兵の中にも優れた実力を持つ者は居る。
2ヶ月前、ユニとともに迷宮攻略へ臨んだ傭兵が良い例で、彼は最低でもAランク下位相当の強さを持っていた。
とはいえ彼が傭兵の中でも上澄みの実力者だった事は疑いようもなく、彼の取り巻きだった男たちなどは箸にも棒にもかからない正真正銘の弱卒だった事を鑑みると、やはり一般的な印象についてもあながち間違いではないのだろう。
しかし今、雷雲が仕掛けた【電糸危機】を人海戦術にて粗野に、されど1つ1つ確実に処理している彼らはどうだ。
無駄がないとは言えないし、統率が取れているかどうかを評価点とするなら警察官や竜騎兵の方が上ではあるだろう。
だが、俗に能力値で表せるような攻撃力や防御力、速度などといった解りやすい優位性を評価点とするなら、まず間違いなく傭兵の方が優っていると言っても過言ではない。
一体、何故このような逆転現象が起きているのだろうか。
その疑問の答えに、ユニはとっくに辿り着いていた。
傭兵の技能──【傭役術:積立】と【傭役術:金庫】。
そもそも、傭兵という職業は全ての技能や能力値において〝所持金〟があまりに不可欠な要素となっているのだが。
上述したように、その日暮らしの者も多い彼らは大抵の場合において技能を活かし切れず、〝一般人に毛が生えた程度の弱卒〟と呼ぶに相応しい能力値でしか活動できていない。
だが、もしも──……そう、もしもだ。
そんな彼らに投資、或いは融資する者が現れたとしたら。
慢性的に不足気味な彼らの懐を返済前提とはいえ暖め、その技能や能力値に傭兵である意味を持たせる者が居たとしたら、このような現象が起きたとしても不思議ではない。
……それ以前の問題として、いくら〝統率力〟に秀でた指揮官たちが居ようとも、その指揮官たちが〝育成能力〟にまで長けているわけでもない以上、唐突な不測の事態に対応できないマニュアル人間となってしまっているのも致し方ないと言えなくもないのだが──……まぁ、それはともかく。
(一体どんな物好きが……)
傭兵たちの強化の正体や4つの組織の至らなさ、その全てを看破していたユニが、この現象を狙って引き起こしたのは一体どこの誰なのかと考えていたところ、ふと彼女の脳裏に1人の〝商人〟の姿が浮かび上がりこそしたものの──。
(……いや、まさかね)
即座に自答し、首を横に振った。
……偶然は、そう何度も続かない。
最後の希望の一角、【変生人形劇作家】の干渉に続き。
ユニと並ぶSランクの商人の介入など、そんな偶然が。