四面か五面くらいの楚歌
そして、それから十数分が経過した頃──。
「「「「お……終わった!?」」」」
「あぁ、とっくにな」
死霊に憑依されていた影響で全身が酷い筋肉痛のように軋む身体を押して目覚めた12人は、ユニとリューゲルの戦いがすでに終わっている事を聞かされて呆気に取られつつも。
「まッ、待て! 納得できるか! 我々は誰1人、決着を見届けておらんのだぞ!? この破壊の跡だけで解れとでも!?」
「そう言ってんじゃねぇか、それとも何だ──」
本来の目的である〝本物の【最強の最弱職】かどうかの確認〟を果たせてもいないのに、まるで爆心地かの如く荒れ果てた地面や木々を見せつけられて『本物だった』などと言われても、やはり彼らとしても納得はできる筈もない様子。
特に、〝【最強の最弱職】の介入〟そのものを回避したがっていた警察官の代表者は胸倉を掴みかねん勢いで食いかかったが、そんな彼を見たリューゲルは溜息をこぼしてから。
「すっかり全快した俺を、お前の独断で敵に回すのか?」
「〜〜ッ、この──」
最悪、依頼を放棄してもいいんだぞ──と、いくら代表者とはいえ一介の警察官の首1つ程度では取り返しがつかないほどの失態を誘発させてやろうかという脅迫を口にする。
……尤も、かの存在が雷にて壊滅させた牧場の経営主が彼の親族である以上、依頼の放棄などする筈もないのだが。
まぁ、それはさておき。
僅かに上背で勝り、年齢や恰幅では遥かに凌駕している筈の眼前に立つ狩人の覇気に圧され、もはや語彙力も何もない暴言しか頭に浮かばなくなっていた彼を諫めたのは──。
「──……もう良いでしょう」
「何?」
竜狩人協会の代表者の、疲れ切った声だった。
「そもそもユニ殿とリューゲル殿の戦いは、貴方がユニ殿を疑ったところから始まった筈です。 そして私が記憶している限り、常に優勢だったのはユニ殿だ。 違いますかな?」
「ぐ、む……ッ」
「こうしている間にも、かの存在は破壊の限りを尽くしながら巨大化の一途を辿り続けています。 可及的速やかに討伐せねばならないのは貴方も承知の筈です、たとえ部外者の手を借りてでも滅せねば……アレはいずれ国をも滅ぼし得ると」
「私も同意見です、【最強の最弱職】の力を借りましょう」
「いや、しかしだな……!」
彼が捲し立てたのはあらゆる面において正論も正論。
無駄な戦いの発端についても、リューゲルの勝ち目が薄かった事についても、一刻も早く解決せねばならぬという事実についても、そして──その為には竜騎兵の代表者が後押しした通り恥も外聞も捨て、【碧の杜】だけでなく他国の狩人を借りてでも成さねばならぬという事についても、全て。
それでも納得がいかない様子の警察官は、どこかに助け舟はないかと最後の1人である首狩人の代表者を見たが。
「何かもう飽きてきちゃったし、アタシもそれでいーよ」
「!? 貴様、先刻まで……ッこの、痴れ者どもが……!」
どうやら彼女は自分の好奇心の赴くまま場を引っ掻き回したかっただけだったらしく、助け舟どころか2人に賛同し始めた事で、いよいよ味方が居なくなった彼はしばらく口惜しげに薄い髪を掻き歯軋りまでしていたが、それも数秒の事。
「──……勝手にしろ。 だが我らは我らで動く、良いな?」
「えぇ、お好きに。 同士討ちさえ起こらなければ」
「……ふん」
自分の中でどう折り合いをつけたのかは解らないが、スンと落ち着いた様子で部下2人とともに踵を返して警察官の本部へと戻っていく彼の拳は強く握り締められており、誰の目から見ても納得していないのだろうなと思わせるのだった。
「「「……」」」
ユニとリューゲル以外の心に一抹の猜疑心を残すほどに。