【五竜換装】
内側から強大な力で破壊された球体の破片が舞う中。
『……あれ? あんなんだったっけ』
テクトリカは、とある違和感を抱いていた。
12人もの人間を腕や背中に抱えたリューゲルの姿が。
先ほどまでと、違っている気がしたのだ。
(一目で気づくでしょ普通)
もちろんユニは違和感の正体を知っていたが、強い方に助言を与えるつもりはないらしく、黙って水分補給するだけ。
しかし、テクトリカも決して間抜けではない。
これでも彼女は正真正銘、1つの世界のNo.2であり。
『ん〜……あっ、ビジュ? ビジュかな?』
数秒ほどの思案の後、外見が異なっている事に気づいた。
……が、具体的にどう異なっているかはピンと来ず。
あーしが考えんのタイパ悪くねと思い始めていた時。
『そだ! リプレイ見ればいいんじゃん! あーし天才!』
ほんの少し前に撮影終了のボタンを押したばかりのプマホを目の前に浮かせたまま、ポチポチと画面に触れて録画されている映像を見返す事で違和感を解消しようと試みた瞬間。
『余所見してンじゃねぇぞオラァ!!』
いつの間にか12人全員を、なるだけ崩壊が浅く今後も安全地帯と成り得そうな位置へ放り投げ終えていたリューゲルが、そこらの|地上を蠢く者ならば軽く引っ掻くだけで鱗を貫き骨肉を断つほどの鋭く重い爪をテクトリカへ振るうも。
『してても余裕だからしてるだけだし。 ってゆーか──』
その重厚なる一撃は【無尽の憑依】によって操られた何かではなく、あろう事か宙に浮かせたままのプマホ1つで受け止められ、そのお陰でテクトリカは眼前で鍔迫り合うリューゲルと画面に映るリューゲルの違いを確認できたようで。
『──ゴツくね?』
(遅っそ)
あまりに時間差のあり過ぎる気づきにユニはすっかり呆れていたが、それはそれとしてテクトリカの気づきは正しく。
細身ながらも強靭極まる四肢は丸太のように逞しくなり。
一般的な成人男性を少し上回る程度の上背は、それこそまさに地上を蠢く者かと見紛うような筋骨隆々の巨躯と化し。
歯向かう敵を噛み砕き、そして斬り裂く牙と爪は、その1つ1つが強大な破壊の意思を帯びているかのように研がれ。
あらゆる障害を突き、薙ぎ、払う槍の如き尻尾は、ただそこに在るだけで城門を開きかねないほどの威圧感を持つ破城槍のように──と全てが大きく変わり果てていたものの。
やはり最も大きな差異は、翼が失くなっている店だろう。
これこそ、リューゲルが誇る【息吹】と並ぶ切り札。
その名も、【五竜換装】。
ユニと戦っていた時や、あの鏡試合の時のような半人半竜の姿である〝遊撃竜〟を基本形態として、それぞれの用途に沿った5つの姿に変異を遂げる、リューゲル独自の能力。
姿が大きく変わるのはもちろんの事、各形態へ変異するごとに彼の能力値もその変異に応じて大きく変わるようだ。
謂わば、〝能力値の再分配〟。
今、彼が変異しているのは──〝一撃竜〟。
機動力の要たる一対の翼を捨て、翼を構築していた分の肉体全てを筋肉の肥大化に回す事でATKとDEFを過剰なくらいに強化する、接近戦に特化した形態であり。
他の形態を含め変異可能な時間は僅かだが、この形態の彼は【超筋肉体言語】のATKや【人型移動要塞】のDEFをも上回る能力値を有する、〝最強の前衛〟として君臨でき。
人間として見ると大きくとも、竜化生物として見ると小さな肉体では収まり切らない筋肉を、12人を救う為の〝防護壁〟及び球体を破壊する為の〝発破〟として利用したのだ。
死霊卿の力を、本気の自分なら凌駕できると信じて。
結果だけを見るならば、その判断は正しかったのだろう。
ある意味、彼の力はテクトリカを凌駕したのだから。
……あの一瞬だけは、だが。
『履き違えンなよ死霊卿、こっからが俺の本領だ! 勝つ為になら手段も姿も選ばねぇ! 何にだって成ってやらァ!!』
『……はーウザウザ、なるはやでエタらせちゃお』
つまりは彼の言う通り、ここからが本番なのだ。
彼にとっても、そして──テクトリカにとっても。