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無尽の憑依

 ──〝憑依〟。


 その概念自体は、リューゲルも知っている。


 相方の存在もそうだが、それ以前に殺人や事故などの現場に発生する地縛霊に遭遇した時、他の狩人ハンターや竜化生物に乗り憑り、その肉体を操る光景を何度も垣間見てきたからだ。


 しかし、テクトリカが行使しているらしい憑依は彼が知っているものと大きく異なっており、困惑を強いられていた。


 非生物にも憑依可能というのは解る。


 取り憑かれた人間たちの意識がないのも、まだ解る。


 解らないのは、その異常なほどの物量や質量。


 いくら冥界のNo.2とはいえ、フェノミアと長く組んでいる立場としては、召喚でも使役でもなく己の魂を分け与えての憑依を、これだけの規模で行えるなどどうにも信じ難く。


 何らかの絡繰があるのでは──いや、ある筈だと思いたい一心で、この瞬間も彼を弑すべく飛来してくる生物や物質を回避、或いは防御しつつ並の商人を遥かに超える洞察力を持つ竜の眼を凝らそうとした、まさにその瞬間の事だった。


『──リューゲル』


『!? ユニ……!』


助言ヒント、要る?』


『〜〜……ッ!』


 魔術師メイジ技能スキル、【魔法術:支援(サポートスペル)】による最下位魔術ロウエストスペルの1つである【コル】を用いての超短距離通信にて、あろう事かテクトリカの主人である筈のユニが助言を押し売りしてきた。


 その助言は、きっと役に立つのだろう。


 他でもない、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】からの助言なのだから。


 だが、それでいいのだろうかと彼は逡巡する。


 彼にもSランク竜狩人ドラゴンハンターとしての矜持くらいはあるのだ。


 しかし、このまま何も解らずじまいでは殺されるだけ。


 彼は『頼む』とも『要らねぇ』とも言わず、黙り込む。


 そして、その沈黙を肯定と捉えたユニ曰く。


『あの娘の憑依には数にも対象にも際限がない。 目で見えようと見えまいと、形が有ろうと無かろうと、生きていようと死んでいようと、どれだけの数だろうと関係ない。 あの娘が望めば望むだけ意のままに操れる。 誰が呼んだか、【無尽の憑依】。 ()()()()()()()()()()()()()()()()最強の死霊だ』


『何だそりゃ……フェノミアが霞んで見えるぞ』


『あぁ、ちなみに〝質より量〟かもなんて期待はしない方が良い。 あの娘の支配下にある限り、あらゆる生物は一騎当千の、あらゆる物質は最上無二の強さを得る。 正攻法より、あの娘の裏を掻いて度肝を抜くぐらいの事しないと駄目だよ』


 無尽というだけあって憑依できる数には限りがない。


 生物か非生物かも問わない。


 肉眼で視認できず、無形であろうと関係ない。


 手数だけなら大国の軍隊どころかユニにも迫る。


 量も、質も──という事らしい。


『良いとこ取りってワケか……なら、()()をやるしか──』


 要は一分の隙もない、という役に立ちそうで立たない助言ではあったが、どうやらリューゲルは突破口を見つけたらしく、鱗を軋ませつつ()()とやらの準備に移行せんとした時。


『──うおッ!? はッ、離しやがれ馬鹿ども!!』


『無理無理、知恵の輪みたいにしちゃったし』


 ガシッ、と憑依された12人全員がリューゲルの全身に正しく知恵の輪のように絡みつくだけでは飽き足らず、いつの間にか憑依させていたらしい地上を蠢く者(ランドリグラー)までもが、こうしている間にも12人の上に重なるように集まっていく。


 まるで、1つの巨大な球体を形成するかの如く。


 そして、追い討ちでもかけるように木々や地面までもが彼を覆い尽くす勢いで球体へ引き寄せられ、それがテクトリカによるトドメの一撃だと悟る頃には、もう──。


『そんじゃあ仕上げ! 最後は映えも意識してぇ……?』


『ッ、クソがぁああああああああああッ!!』


『──はい、圧縮じっぷ☆』


 プマホに取り付けられたレンズと画面に自分と球体が映るように調整しつつ、ギュッと圧縮されて一回り小さくなった土と植物と血肉の塊を撮影し、戦いに終止符を打った。


『撮影おーわり! どぉ? ゆにぴ! ご褒美くれる!?』


 その後、崩壊し切った地面にドズンと鈍い音を立てて落ちた球体には目もくれず、ユニの元へと飛んで来たテクトリカは約束のご褒美をさっそくとばかりに要求せんとしたが。


「どうして?」


『へ? だって──』


 ユニから返ってきたのは、きょとんとした疑問詞だけ。


 しかし、きょとんとしたいのはテクトリカの方だ。


 いいよ、と言ってくれた筈なのに。


 気が変わったのかどうかは解らないが、とにかく諦め切れないと言わんばかりに縋りつこうとした死霊の詰問は。


「──()()()()()()()()()()だよ、テクトリカ」


『……いやいや、そんなワケ──』


 そもそもの前提を覆された事で、不発に終わってしまい。


 まさか、そんな筈は──と彼女が振り返ったその瞬間。


『──……マ?』


 ミシッ、バキバキ、という何かが割れたり砕けたりしているのだろう鈍い音とともに球体の内側から亀裂が入り、テクトリカが呆気に取られて硬直する中、球体は──はじける。


『〜〜ッ!! うおりゃあぁああああああああああッ!!!』


 必要以上に大きな破壊音とともに現れたのは、必要以上に大きな咆哮を轟かせながらも、その逞しい腕や背に代表者や部下たちを合わせた12人を抱えるリューゲルの姿。


「流石は【竜化した落胤(ドラゴンフォールン)】、黄金竜の世代(わたしたち)に次ぐ強者だ」


 己の身だけでなく、無能と罵った者たちをも救ってみせた彼を見て、ユニが素直に称賛する旨の発言をこぼす一方。


 テクトリカは人知れず、『チッ』と強めに舌を打つ。


『……うっざ』


 自分を差し置いて褒められた、あの半人半竜の化け物を。


 本当に、殺してしまいたくなってきたようだ──。

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