【竜化した落胤】vs【死霊卿】
……【墓荒らしの女王】、フェノミア=ポルターガ。
ユニを除けば世界最高と言っても過言ではなく、ユニでさえ技能を行使したりテクトリカを経由したりしない限りは不可能な冥界への干渉を、あろう事か素で行える死霊術師。
そんな彼女を相方に持つリューゲルは、その軽薄さからは思いも寄らない悍ましい殺意をヒシヒシと感じ取っており。
(自他共に認める冥界のNo.2……! アイツが喚び出す死霊も大概だったが、明らかに存在の格が違ってやがる……!)
あの時が初見というわけではなかった、ヒノモトの陰陽師とは比較する事さえ烏滸がましく思えてしまうほどの絶対的な強さと威圧感は、ともすればLv100の迷宮を護る者すら超え得るものであった事は間違いないが──それでも。
『ッ、上等だ!! かかってこいやァ!!』
……ここで退くわけにはいかない。
彼は【竜化した落胤】、リューゲル=バハルティア。
Sランクにして、ウィンドラッヘ最強の狩人なのだから。
『オッケー☆ そんじゃ、撮影スタート!』
『!! 何だ……ッ!?』
それを知ってか知らずか──おそらく知らない──テクトリカは、いつの間にか持っていたプマホを宙に浮かせつつ録画を開始、それが何かを知らないリューゲルは当然のように警戒し、とにかく射線上から逃れる為にと真横へ跳んだが。
(……? 何も、起きてね──)
テクトリカからすれば当然の事でも、その機器の使途を把握できていないリューゲル目線だと己の身や周囲に何も起きていない事の方がよほど不気味だと感じていたのも束の間。
『──うおッ!?』
突如、背後から何らかの気配を感じ取ったリューゲルが振り向くやいなや、そこには各々の武器を振りかぶって今にも彼を襲撃せんとする4つの組織の代表者たちが眼前まで迫って来ており、それを難なく受け止める事自体はできても。
『何だテメェら! 俺の戦いに乱入なんざしやがっ、て……』
そもそも何故この4人が無謀にも割り込んで来たのか全く見当も付かず、その疑念をそのまま口にしたはいいものの。
「「「「……」」」」
(コイツらの貌……感情が、抜け落ちたみてぇに……!?)
そんな4人の表情は、およそ普通の人間なら当たり前に読み取れる筈の喜怒哀楽の一切が抜け落ちたような青白い真顔となっており、それもまた彼の中の不気味さを加速させ。
『とにかく……ッ、どきやがれェ!!』
「「「「……」」」」
『ワケ解んねぇが……邪魔立てするってんなら──』
ひとまず距離を取るべく強靭な尻尾を振るって弾き飛ばした4人は、吹っ飛びながらも本来の彼らが持つ身体能力では難しいだろう見事な着地を披露した後、彼らに追従する形で武器を構え、やはり真顔を湛える部下たちの姿もあって。
現時点では何一つピンとは来ずとも、あの馬鹿げた強さを持つ死霊を相手取るので精一杯な以上、2度と邪魔できないように意識を刈り取るくらいの事はと決心した、その時。
『──ッ!? 地震か!? こんな時に……!!』
グラッ、と縦にも横にも大きな揺れが彼を襲う。
地震かと誤認するのは至極当然の思考だろうが。
(ッ、まさかアイツ、【槌操術:地震】を……!)
この世界には様々な効果を持つ〝技能〟が存在し、その中には地震を起こす効果がある技能も存在する事が周知の事実である以上、人為的な現象だと考えるのもまた自然であり。
彼は真っ先に、とある方向へと視線を遣ったが。
「……」
『ッ!?』
その先で平然としていたユニは、首を横に振るだけ。
どうやら当てが外れたらしいが、だとしたら一体どこの誰が──と、あえて考えないようにしていた最後の可能性が居る方向へ視線を遣るかどうか逡巡していた、その時だった。
『う、お……ッ!? 何だ、コレ……!!』
彼が立っている地面のみならず、つい先ほど彼が弾き飛ばした者たちや、その者たちが立っていた地面、法則性もなく生えていた草や木々が砕けながら浮遊していくではないか。
おそらく、この世界における星の心臓が寿命を迎え超新星爆発を引き起こす際にも、このような終末めいた光景を一瞬とはいえ目撃できるかもしれないが、それはさておき。
『うーん、やっぱ映えるぅ! ふわふわ浮かぶ木と草と地面と人間たち! この臨場感、同接も爆上がっちゃうなぁ!!』
『……ッ!! テメェの仕業だってのか!?』
『そだよぉ? これがあーしの──』
この超常現象がテクトリカによるものであると、リューゲル自身も薄々気づいてはいただろうが、それでも実際に死霊が単独で引き起こしていると知り、冥界のNo.2が伊達ではないのだと改めて思い知らされる一方、困惑する事も忘れない。
何を言っているのか全く解らないという事以上に。
『【無尽の憑依】! 余所見してたら乗っ取っちゃうぞ☆』
『なッ!? 憑依、だと……!?』
己の知識や経験と、実際の現象に齟齬があったからだ。