虚勢、そして思わぬ提案
……現状、仮に4つの組織と傭兵たちが上辺だけでなく本心から協力体制に移行し、かの雷雲に命を賭して挑んだとしても、勝率はおよそ1割──……いや、1割にも満たず。
ゼロ、と言い切ってしまう方が遥かに有意義だろう。
「何を世迷言を……! その愚かな虚栄心が原因で、ほんの数十分の内に100名近くの尖兵と数百匹以上の牧畜や竜化生物が犠牲となったのですよ!? これ以上、被害を拡大させるわけにはいかないでしょう! 彼女に協力を仰ぐべきです!」
前哨戦での重すぎる犠牲を考えれば、それを解っていない方がおかしいのだと、国はもちろん民すらも分け隔てなく護るべく全力を尽くすと操を立てている竜騎兵の代表者である女性が2人の愚かな代表者たちを説得せんと試みたが。
「黙れ小娘! 貴様にはウィンドラッヘの民としての誇りはないのか!? 如何なる犠牲を出そうとも、この国に生を受けた者が事態の収束を図るべきだというのが解らんのか!!」
「アタシに誇りとかそういうのはないけどぉ、よその国の介入って碌な事になんないって解るっしょ? ねぇオバさん」
「〜〜ッ、はぁ……」
頭が固い大人というより、どうしても己の思い通りにいかない事象を受け入れたくない子供のような反論で返された女性は、もはや何を言っても無駄なのかと頭を抱える始末。
(口先ばかりの無能ども……彼女は含まれてな──)
そんな不毛極まる口論を見ていると、リューゲルが吐き捨てた罵倒の対象にこの女性は包含されておらず、ともすれば優秀なのかもと【通商術:鑑定】を発動したユニだったが。
(──……あぁ、そういう……)
すぐに、その浅はかな考えを改めざるを得なくなった。
あまりにも──……あまりにも能力値が残念だったのだ。
それこそ、Fランク狩人と同程度の矮小具合であり。
無能にも色々な形があるという事をユニが理解する中。
「大体、貴様が真に【最強の最弱職】だという証拠がどこにある!? 貴様ら狩人は姿を変える力も有していただろう!」
「「「「……ッ!?」」」」
(おいおい正気かコイツ……)
ユニが最強の狩人であるという大前提そのものを疑うという、もう自殺行為以外の何物でもない決めつけを吐き捨て始めた警察官の代表者の暴挙に、ユニの助力を受け入れるつもりでいる2人の代表者や彼の部下たちのみならず、リューゲルでさえ流石に彼の脳内構造が心配になってきている様子。
当然と言えば当然だろう、世間的には同じSランクとなっていても、ユニは同じ世代に1人だけ現れるEXランク。
人間はおろか、竜の領域さえも超越せし存在なのだから。
「聞き捨てなりませんな! 我ら竜狩人協会は腹の内まで清廉潔白! クエスト外での行使など首狩人でもなくば……」
それを知ってか知らずか竜狩人協会の代表者は、ここぞとばかりに警察官だけでなく商売敵の首狩人ごと貶めながら、アピールでもするかのようにユニへと視線を送る。
(腹の内ね……媚び売りしかできなさそうな顔でよく言うよ)
彼からすれば、ユニは下手な貴族よりも遥かに媚を売る対象として相応しく、このように腰が低くなってしまうのも致し方ないように思うが、それを見抜けないユニではなく。
興味なさげに視線を外したユニの代わりに苦言を呈し始めたのは、『ふーっ』と爪の手入れさえし始めた派手な女性。
「その言い方じゃ首狩人協会は揃って腹黒みたいに聞こえるんだけどぉ? ってゆーかぁ、そんなに気になるんなら確かめればいいじゃん? ちょうどよくリューゲルも居るしぃ」
「……おい、あんま調子乗ってんじゃ──」
どうやら『首狩人でもなくば』という何気ない一言は思った以上に首狩人協会の代表者の癇に障ったらしく、あろう事か八つ当たりとも言うべき提案を口走った彼女に、さしものリューゲルも黙っていられず強烈な圧を放ちかけたが。
「──いいよ」
「はッ?」
「「「「えっ」」」」
提案した本人すら呆気に取られるほど、あっさりとした承諾の返事をユニが口にした事で、理外の勝負が成立する。
【最強の最弱職】vs【竜化した落胤】。
王族でさえ金を出してでも観戦したいだろう戦いが──。