「いいよ」
──Sランク。
それは、人間の身でありながら人間の領域を逸脱した怪物たちを指す等級であり、それぞれが持つ力の系体は〝何を相手取るか〟によって変われど、それぞれが持つ力の烈度は過去の狩人を含めても全員が全員、国1つ落とすほどに強く。
こうして誰かに頼らずとも大抵の難事は己の力のみで解決できる為、ユニやトリス、リューゲルやフェノミアのようにパーティーを組んでいるSランクの方が珍しいと言える。
ましてや彼は【竜化した落胤】。
人間にして竜化生物でもあるという正真正銘の怪物。
公然とは言い切れない秘密を共有するという目的さえなければパーティーを組む事もなかった筈の彼が、フェノミアの不在が原因だとしても何故ユニに助力を頼むのだろうか。
……迷宮を護る者、Lv100、危険度S、逆角個体。
うんざりする要素が揃いに揃っていはするものの。
「君1人でも斃せない相手じゃない筈だけど」
「まぁ、そりゃそうなんだが……」
「?」
彼の本気を体感した事があるユニからすれば、多少の苦戦こそすれ決して勝利できぬ相手ではない筈であり、何をそんなに渋ったり言い淀んだりする事があるのかと疑問を抱く。
しかし、どうやら彼には彼なりの事情があるようで。
「……実を言うとな、例の牧場の経営主は俺の母親の姉夫婦なんだ。 俺にとっちゃあ伯母と伯父に当たる。 もちろん向こうは俺みてぇな化け物の事、認知してねぇんだがよ──」
彼を身籠ってすぐに竜化病に罹り、出産による体力の消耗も相まって命を落とした彼の母親の実の姉こそが、夫とともに務めている牧場主の片割れであるらしいものの、その事実を2人は知らされていないのだという。
それも全ては、リューゲルの父親が原因だった。
妻の死の理由も、産まれた筈の子の行方も隠蔽したのだ。
〝化け物のような息子が産まれた〟など醜聞以外の何物でもない為、貴族としては当然の対象なのかもしれないが、実の妹とその子供の全てを消された姉の心中は如何ほどか。
もちろんリューゲルは彼らと話した事もなければ顔を合わせた事もなく、これから先も自分が甥に当たる事実を2人に伝えるつもりはないが、ここで見捨てるのも寝覚めが悪く。
「5つの勢力が同時に暴れやがったら、もっと被害が広がっちまう。 これ以上、あの2人に心労かけさせたくねぇんだ」
「なるほどね」
「報酬は言い値で良い! この通り──」
尖兵たちによる前哨戦でさえ牧場に大きな被害が出てしまっている以上、次なる戦いにおける被害は牧場どころか国そのものの存続を危ぶませるものになりかねぬ為、確実性を重視するべくユニの力を借りたいというのが彼の主張。
この感じだとフェノミアが居ても頼み込んできただろう。
それを悟ったからなのか、そうでないかは定かでないが。
「──いいよ」
「へっ?」
「だから、協力してあげてもいいよって」
「……頼んどいてアレだが、いいのか?」
机に頭を勢いよく叩きつけてまで頼み込んだ割に、ユニから返ってきたのは随分あっさりした了承の返事であり、こんな面倒を吹っかけているのにそんな簡単に引き受けていいのかと、お前はそんな暇じゃないだろと訝しんだものの。
「ほら。 鏡試合の時、迷惑かけちゃったみたいだし」
「……あぁ、そんな事もあったな……」
どうやらユニは鏡試合の際、【旭日晴天】による極大の熱光線を彼が一身に受け止めてくれた事を思った以上にありがたく感じ、そして仮にも神の力の一端を相殺し切ってくれた事を思った以上に感心さえしていたらしく。
「報酬は、あの時の迷惑料と相殺って事でどう?」
「交渉、成立だな。 よろしく頼む」
そちらの相殺と掛けるわけではないが、報酬はタダでいいよと差し出しされた手を、リューゲルは力強く握る。
かたや、黄金竜の世代の一角であるEXランク。
かたや、トリスと並んで黄金竜の世代に次ぐSランク。
今ここに、【最強の最弱職】と【竜化した落胤】による今回限りの最強タッグが結成されたのだった──。
「あ、でもEXPは多めにもらうよ?」
「……ちゃっかりしてんな」