三つ巴ならぬ──
あまりに厄介で、あまりに下らないというのは。
その4人組とやらを指した表現だと思っていたユニ。
「けどなぁ、こっからがもっとしょうもねぇんだよ」
「え?」
しかし、どうやらリューゲルにとって4人組の愚行以上に下らないと蔑む事態が、この1週間で発生していたらしい。
その事態の発端となったのは、牧場主の夫婦による──。
──〝通報〟。
地上で何らかの事件や事故が発生した場合、竜化生物が絡んでいれば竜騎兵、絡んでいなければ警察官に通報するというのがこの世界の常となっており。
それら2つの組織でも対処し切れない場合、竜化生物が絡んでいれば竜狩人協会、絡んでいなければ首狩人協会に対して竜騎兵や警察官、或いは被害者が直にクエストとして発注してもらう事で、ようやく狩人の出番と相成るわけだが。
牧場の危機で焦っていたという事もあるものの、よりにもよって夫婦は『どこへ通報するか』を話し合わず各々何とかして欲しさ一心で4つ全ての組織に通報してしまったのだ。
奇しくも、ユニが発見した〝技能や魔術を閉じ込めて好きな時に使用できる〟効果を持つ迷宮宝具、アークを用いて。
当然、通報を受けたからには両協会も竜騎兵も警察官も己らの威信に懸けて事態の収束を図ろうとしたが、そこに待っていたのは商売敵とは言えないまでも決して関係が良好だとは口が裂けても言えない、4つの組織の尖兵たちの邂逅。
目的は同じでも、組織が違えば全てが違う。
組織内での連携が完璧であろうと、そんな組織が同じ戦場に4つも居合わせ、それらが全く同じ標的に向かって戦闘行為を開始したとなれば、どうなるかは想像に難くない。
ましてや標的は逆角個体にして迷宮を護る者個体でもあるという、Aランクパーティーでさえ壊滅必至な超難敵。
ろくに戦況も把握できない尖兵どもに勝ち目はなく。
彼らはただ、膨大なEXPだけを献上したのだ。
かの雷雲が、Lv上限に至るまで──。
「なるほど。 三つ巴ならぬ四つ巴の様相を呈してるわけか」
「金の匂いに釣られた傭兵も居るから五つ巴だな」
「……まぁ、どっちでもいいけど」
その惨状を把握するやいなや、それぞれの組織がそれぞれに降りかかる責任を回避するべく、三つ巴どころか四つ巴、リューゲルに言わせれば五つ巴の盤外乱闘──実際に繰り広げられたのは醜い舌戦だけ──の真っ最中らしいという話の締め括りに、流石の【最強の最弱職】も溜息をこぼす中。
「それで? そんな話を私にした理由は?」
「あぁ、こっからが本題なんだが──」
そういえば、まだ頼み事とやらを聞けていなかったなと思い出し、空になったグラスを音も立てずに置いたユニからの質問に、リューゲルも同じくジャッキをゆっくり置きつつ。
「──手、貸してくれねぇか?」
「え?」
SランクからSランクへの応援要請を口にした。