再会、竜の落胤
それから数時間後、ユニはさっそく雷雲のもとへ──。
──……向かうかと思われたが。
「……はい、これで以上となります。 報酬の取り分につきましてはそちらが7、こちらが3となってしまいますが……」
「それでいいよ、どうもありがとう」
「い、いえ! こちらこそ……!」
これが本拠地なら後回しでいいし、何なら分身にでも任せて新たな迷宮にでも向かうところではあるものの、流石に他国での活動ともなればユニ本人が報告に出向かないわけにもいかないらしく、20分ほど掛けた報告がようやく終わり。
相も変わらず人当たりの良い爽やかな笑みとともに『ご苦労様』と労われた受付嬢は、ファンクラブ会員でもないのに思わず握手を求めそうになるほどには魅力されていた。
……まぁ、それはさておき。
当のユニとしては、さっさと別の迷宮に赴いてレベリングを続け、星詠みが告げた『良い事がある』という予知が果たされるその時を待とうと考え、踵を返そうとしたのだが。
「そうだ、1つ聞きたい事があるんだけど──」
もうすでに、〝アレ〟が何なのかという事自体は把握済みであるものの、この国の竜狩人協会はアレをどう捉えているのかは聞いておきたいと判断し、それを問おうと試みた時。
「──あの雷雲の事だろ? 目も耳も聡いなお前は」
「ん?」
「あ、貴方は……!」
突然、ユニが何を問おうとしていたかを完全に看破した上での褒めるような呆れるような男声が背後から響き、その男性の姿に受付嬢が目を見張る一方、ユニが全く驚く様子もなく振り返った先で仁王立ちしていたのは──。
「あン時の鏡試合以来か? ユニ」
「久しぶりだね、リューゲル」
ユニと肩を並べる竜狩人──世間的にはそう認識されている──【竜化した落胤】、リューゲル=バハルティア。
ウィンドラッヘには彼と共に【碧の杜】なるパーティーを組む女性狩人を含め実に2人しか居ない、Sランク竜狩人の片割れとの2ヶ月ぶりの再会を、握手を交わして喜んだ。
☆★☆★☆
所変わって、とある酒場の個室。
ここは俺が持つから好きなだけ呑み食いしてくれ、そう言われたところで大食いでも酒豪でもないユニは人並みくらいの量しか呑み食いせず、それを知っていたから奢ると言ってきたのか、それとも何か裏があるのかは定かでないが。
元より活動場所が違う2人、同じ竜狩人でも競合相手とはならないようで、『何でこっちに居るんだ』とか『相変わらずレベリング漬けか』とか、リューゲル8割、ユニ2割くらいの割合で話に花を咲かせていた──……そんな時。
「そろそろ本題に入ったら? あの雷雲について話があるんだろう? そうじゃなきゃ、あの切り出し方はしないもんね」
ユニもリューゲルも全く酔っ払ってなどいないが、それでも2人合わせれば結構な量を呑み食いしていた為、タイミング的にちょうどいいと判断したユニからの、〝催促〟。
彼女は、リューゲルと再会した時から解っていた。
この再会が偶然のものではなく、ユニがこの国に居るとどこかで知ったリューゲルが探したがゆえの必然のものだと。
「……話が早くていいな、お前は」
「?」
それを悟ったからなのか、もしくは別の思惑でもあったのか、リューゲルは何やら意味深な口ぶりでユニを褒めつつ。
「お察しの通り、あの雷雲に関してお前に頼みたい事があんだよ。 本当ならフェノミアに頼みゃあいい話なんだが……」
「あれ、そういえば居ないね」
「あぁ、ちょっとな。ま、それはいいとして」
やはりリューゲルは元々ユニに──というより、ユニほどではなくともある程度の実力を持つ誰かに今は諸事情によって不在の相方の代わりを頼みたかったらしく、フェノミアが不在の理由については流されたものの話は続いていき。
「まず最初に確認しときてぇんだが……」
「あの雷雲の正体?」
「……流石だな、もう見抜いてたか」
そもそもの前提を問おうとするも、とうにアレの──もとい雷雲の正体を看破していたユニからすれば、リューゲルが問おうしている事そのものを看破する事も容易であり。
「お前も知っての通り、あの馬鹿デケぇ雷雲の正体は──」
ゴクッと喉を鳴らして麦酒を一気呑みした後──。
「──〝羊雲竜〟。 危険度Fランクの弱小竜化生物だ」
雷雲の正体を、酒臭い息とともに吐き捨てた。