あれから2ヶ月
新章突入!
ここからの更新は、3日に1度とさせていただきます。
ご了承いただければ幸いです。
才能溢れる4人──元々才能溢れていたのは3人だけだったが、それはそれとして──との狩人講習から、2ヶ月。
とある迷宮宝具を返却する為に尋ねた、とあるSランクの竜狩人と予想通りの再戦をする事になってしまったり。
のらりくらりと躱していた死霊卿とのデートを受け入れた結果、残る2柱ともデートせねばならなくなったり。
袂を分かった幼馴染たちが、ユニの不在を物ともせずに活躍し、少しずつ信頼を取り戻していると知ったり──と。
2ヶ月という長いとも短いとも言い切れない期間の中で起きたにしては、そこそこ濃厚なイベントもありはしたが。
虹の橋を離脱した事への〝禊〟を済ませた後、これといった協会側からの干渉も、そもそも受ける気のない貴族からの指名依頼の仲介を除けば殆どなくなったユニが、この期間で最も精力的に取り組んでいた事はと問われれば──やはり。
「【増強術:攻勢】、からの──【槍操術:芒星】」
『RO、O"OO……ッ!? BEッ、AAAAARッ!!』
「おっと、流石はLv100。 歯応えあっていいね」
強敵相手の、レベリングであった。
ユニが戦っているのは、〝轟熊竜〟。
その名の通り熊を派生元とする凶暴極まりない竜化生物。
危険度は堂々のSランクであり、ユニの称賛の言葉にもあるように、そのLvは上限値である100に到達している。
この個体は幸か不幸か翼を持たず飛行できない無翼種ではあるが、その代わりに生まれついて強靭な四肢の一撃は苦もなく大地を割り、頑丈な体毛は生半可な攻撃を通さない。
これが地上を統べる者なら、そこらのAランクパーティーでも苦戦必至ながら討伐にまで持っていく事もできようが。
あろう事か、相対するは迷宮を護る者。
白色変異種や黒色変異種といった、ごく低確率で現出する突然変異種を除けば、実質的な頂点に座す正真正銘の怪物。
狩人で例えるなら、最後の希望相当であると言えよう。
だが、そんな怪物も【最強の最弱職】には敵わない。
技能によって多少なり強化されているとはいえ、そこらの岩盤よりよほど強固である筈の体毛も、ユニが放った1度の刺突からなる5連撃が、その奥に潜む強靭な筋肉や高密度な骨ごと貫いて尋常ならざる痛撃を当然のように与えており。
もはや消化試合と言ってもいい戦いになっているものの。
『……何が〝いいね〟よ、自作自演じゃないの』
どうにも一方的としか思えぬ激闘を傍から観ていた魔界のNo.2、悪魔大公たるアシュタルテの表情や声音は暗い。
……自作自演と彼女は口走ったが、何の事だろうか。
その答えは、ただ1つ。
この個体の元々のLvは100ではなく──……98。
ユニが、Lvを上げさせたのだ。
強化術師の覚醒型技能、【増強術:躍進】を用いて。
98と100、その差はたったの2。
しかし、討伐時に得られるEXPには天と地ほどの差があり、98の個体を斃しても得られるのはLvを4か5上げる程度のEXPだけだが、100を1匹斃してみせたなら、1つの職業や武装のLvを20近くも上げる事ができるのだ。
ほぼ全ての職業や武装が高水準なユニにとっては、そしてLv100だろうと迷宮を護る者だろうと突然変異者でなければ苦戦もしないユニにとっては、あまりに好都合。
つまり、ユニにとってのレベリングとは他と違い〝Lv100に到達し得る器を探して強制的に成長させ、それを討つ事でEXPを得る〟──という、正しく自作自演の強硬策。
そして今日も、Lvの急な上昇の反動による激痛を理不尽に負わされた挙句、反撃も叶わず殺される哀れな竜が1匹。
「もういいよ、〝アダマス〟──【鎌操術:血刃】」
『BOREッ!? O"ッ、A、AAAAAAAR……ッ』
瞬きをした次の瞬間には槍から持ち換えられていた大鎌を触媒とした真紅の刃は、使い物にならなくなった前脚を庇うべく立ち上がっていた轟熊竜の巨体を袈裟斬りにし、ズシンと鈍い音を立てて上半身を迷宮の地面に落下させたが。
「ん〜……ま、突然変異種のようにいかないか」
どうやら、あまり満足のいく結果ではなかったようだ。
『……あんなのと敵対しようとしてたのよね、私』
……悪魔大公を改めて畏怖させる事はできたようだが。