短くも濃厚な
ここまでが〝狩人講習編〟!
次回更新は1週間後、10/13(日)となります!
協会総帥との交渉を終え、受付にて狩人1人分とは思えないほど多額の報酬金を受け取り、数人の熱狂的なファンへ握手やサインなどのファンサを行った後、ユニは協会を出て。
「少し遅れちゃったかな、ごめんね」
「いえいえそんな! 早いくらいです!」
「さぁユニ様、上座へどうぞ!」
王都で最も大きく、そして最も豪華かつ高価なレストランにて一足先に彼女を待っていた【黄金の橋】と合流、内密な話をする時にも利用される完全防音の個室にて席に座り。
あらかじめ出される料理が決められている粛々としたフルコースではなく、それぞれが好きに自由に注文する酒場形式で肉、魚、野菜、酒と5人分の料理が一通り揃った途端。
「それでは! 自分ら【黄金の橋】の狩人講習修了、そんでパーティーと個々人でのBランク昇格を祝ってぇ……!!」
麦酒がなみなみ注がれたジョッキを手にしたハクアが立ち上がり、この宴席が催される事となった2つの慶事を口にしつつ、ユニも含めた全員が杯を掲げるのを待ってから。
「「「「かんぱーいっ!!」」」」
「乾杯」
5人全員で、祝宴開始の合図を宣言した。
「お好きなだけお召し上がりくださいね、ユニ様! 今日の支払いは全て私が持ちますので! さぁさぁお酌を……!」
「……ありがとう、そうさせてもらうよ」
王都最高峰のレストランという事もあって1品1品が結構な値段のものばかりなのだが、シェルトは仮にも公爵令嬢。
迷宮踏破の報酬は4人で山分けした為、支払いは小遣いの中から出す事になるものの、その程度であれば全く問題ないらしく、これぞ最高位の貴族の財力だという事を見せつけ。
貴族自体は嫌いなままだし、シェルトの小遣いどころか公爵家の全財産を優に超える財力を有しているのだが、たまにはこういうのも悪くないと思っている辺り、ユニにとっても充実した1週間ではあったのだろう事が窺えた。
「〜〜ッ、かぁぁ! 何にしてもラッキーだったっすよね自分ら! 【最強の最弱職】に嚮導役を引き受けてもらった狩人なんて、広い世界のどこを探しても自分らだけなんすから!」
その一方、5人の中で最も酒好きなハクアは麦酒を勢いよく呑み干してから赤ら顔で笑みを浮かべ、ここに至るまでの全てが幸運だったと噛み締めるように叫び放つ。
実際、頑なに『ユニ様以外はお断り』と主張し続けていた4人だが、もし今回ユニに断られれば協会側から実質的な命令として憂いなく優秀と言えるAランクの狩人を派遣するという話が上がっていた為、幸運なのは間違いなかった。
「引き受けていただいた事もそうですけれど、この1週間の講習は本当に充実したものでしたわ。 今後とも懇意にさせていただきたく思うのですが……無理強いはできませんわね」
また、ハーパーはハーパーでユニと同じ銘柄の葡萄酒を嗜みながら、パーティー加入は絶対に不可能でも、たまに助言をいただける相談役として頼らせてほしいと本音を漏らしはしたものの、すぐに自問自答して撤回する。
畏れ多くも、ユニはSランク最上位の竜狩人。
実際にはEXランクなのだが、そうでなくとも彼女に比肩すると言われる2人の狩人同様、協会の命令など一蹴し、あろう事か逆に命令してしまえるほどの存在であり、貴族令嬢風情が独占できるわけがないというのは自明の理だった。
「ユニ様以外の圧倒的強者たちと出会えたのも、大きな収穫だった、かと……何と言うか、あれから意識が変わったような気がしますし……とても、とても有意義でした……」
そして、シェイは1週間の講習の中でも2人の強者と相対した経験が己の中の意識や考え方を変革してくれたと強く実感しており、『いずれ最後の希望の境地に至る』というユニの言葉も満更嘘ではないのかもと思えるようになっていて。
彼女が言うように、4人全員にとって有意義な講習だったという事は、4人が誰より自覚しているところであり。
「これから先、君たちはいくつもの大きな壁にぶち当たるだろう。 ともすれば【妖魔弾の射手】や【狂鬼の戦乙女】と一戦交えるよりも、危険で困難な壁に。 でも大丈夫、君たちは私が与えた試練を乗り越えてみせたんだから。 ね?」
「「「「〜〜ッ!!」」」」
そんなシェイの呟きを耳にしたユニは、さも長年こうして後進育成に尽力している立場にあるかのような口ぶりで以て4人を評価し、『ね?』と人当たりが良く妖艶さも感じる笑みを向ける。
それは、【最強の最弱職】が贈る最上級の──〝賛辞〟。
「ユニ様! 改めまして、このたびの狩人講習! 私たちのような未熟者に貴重な時間を割いてくださり! そして導いてくださり……ッ!! 本当に、ありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「どういたしまして。 これからも精進するんだよ」
「「「「はいッ!!」」」」
その賛辞を〝心〟で受け取った4人は一斉に立ち上がってから整列し、シェルトが代表して述べた最上級の謝辞に呼応して頭を下げた少女たちに、ユニはただにこりと微笑んだ。
その後、2時間ほど最高級の料理と酒を嗜んでからレストランを出た4人は、『次にお会いする時までには、もっと強くなっておきます』と宣言して別れを告げ、短くも濃厚な1週間に終わりを告げつつ各々の家への帰路に着くのだった。
『ねぇねぇゆにぴ、これから何すんの? まだ今日が終わるまで時間あるしさ、あーしとデートしようよデート!』
「ん? あぁ、まぁいいけど──」
その直後、彼女にしては珍しく大人しくしていたらしい冥界のNo.2、テクトリカが堰を切ったように2人っきりの真夜中デートを提案し、これといって断る理由も見つからなかったユニはその提案を受け入れかけたものの。
「──いや、ごめん。 やっぱり無理かも」
『えーっ!?』
「また今度ね」
『むうぅ……サゲぽよ……』
ふと何かに思い至った結果、デートに割いている時間はないという結論に至り、そもそも気乗りしていなかったデートの誘いを断ってきたユニからの先延ばしに肩を落とす中。
(……再戦、なんて事にならなきゃいいけど)
ユニは【通商術:倉庫】の中で保管している武器の1つ、黄金色の大槌を指で弾きつつ溜息をこぼす。
戦いの終盤、本来の彼女の活動の場である縄張りの方へと吹き飛ばした結果、置き去りとなってしまった迷宮宝具を返さねばならない事を口実としてデートを断ったユニ。
あれから僅か数日しか経っておらず、あれほどの重傷が癒え切っているわけがないとは思いつつも、あの狂戦士ならそれすら好機と捉えて挑みかかってくるだろうと半ば確信しており、どうか穏便に──と彼女にしては珍しく天に祈る。
しかし、そんな願いも虚しくユニは累計で何度目かも解らない【狂鬼の戦乙女】との戦いに臨む事になるのだが。
……それはまた、別のお話──。