引き受けさせた真の理由
一瞬、何の事だと呆けてしまったセリオスだったが。
「認めるとは、あの4人をですか? 一体、何を──」
もしや? と思い当たる節を思考の隅から手繰り寄せつつ最初からある程度は認めている筈の【黄金の橋】を、『これで認めてくれたか』とは一体どういう意図の疑問なのかと。
質問に質問で返そうとした、その時。
「──惚けるのはやめてほしいな」
「……ッ」
ユニから返ってきたのは、たった一言の──〝圧〟。
「……何もかも、お見通しのようですね」
最初から全てを見抜いた上で、あくまでもセリオス自身に言わせようとしているのだと悟った彼は、僅かに気圧されながらも『ふーっ』と長めの溜息をこぼしてから一呼吸置き。
「……初めて貴女を見た時、〝竜狩人〟という狭い世界に縛られてはいけない存在だとすでに確信していました。 それは今でも変わっていませんし、変えるつもりもありません」
狩人としては大成できずとも、その場の誰より早くユニの特異性を看破できていたセリオスからしてみれば、いち狩人として縛り付けておく事が正解だとはどうしても思えず。
もちろん元狩人として、何より協会総帥として誇りを持ってはいるが、だからこそユニにはもっと他に相応しい何かがある筈だという考え自体は今でも心に残ったままではある。
「ですが貴女は示してみせた。 ただ竜狩人の頂点にて胡座を掻くだけでなく後進を育成する気概を持ち、それを成し遂げられるだけの指導力をも併せ持っているのだと」
しかしながら、こうして貴族令嬢を相手に嚮導役を快くとまではいかないまでも引き受け、4人が元より優秀だった事を加味しても素晴らしい育成力を見せつけられたのも事実。
「存外、【超筋肉体言語】の審美眼も捨てた物じゃない」
「あぁ、同い年なんだっけ」
「えぇ、研鑽の日々が目に浮かぶようです」
あの時、竜狩人協会総本部に集った上層部の人間の前にドヤ顔でユニを連れて来た、現Sランクにして現協会長、そしてセリオスと年齢を同じくするスタッド=パンツァーの目は曇っていなかったのだと再認識できた事も相まって。
「認めます。 竜狩人は、貴女にとって役不足ではないと」
「ありがとう、これでようやくお墨付きだね」
もう認めざるを得ないところまで来てしまったと理解したがゆえの数年越しのお墨付きに、にこりと人当たりの良い笑みと心が籠っているかも解らぬ抑揚のない謝意で返すユニ。
「それじゃあ私は──……あ、そうだ」
「?」
それを証拠に、それ以上は言及する事もなくあっさり立ち上がろうとしたユニだったが、ふと何かに思い至ったかのように立ち上がった状態で止まったかと思えば。
「【変生人形劇作家】の最近の動向、知ってたりしない?」
今は歴史から改変され存在ごと消失した、あの異形の怪物を【黒の天山】に造るように促した最後の希望の1人である狩人の動向を、セリオスなら或いは把握しているかもしれないと考えて問いかけたものの。
「……ご冗談を。 そんなもの、把握できるわけがない」
「協会総帥の君でも?」
「当然でしょう? 何しろアレは──」
全ての竜狩人協会、延いては竜狩人を纏める立場にある彼でも追う事はできていないらしいが、それも無理はない。
セリオスの言葉を借りるなら、アレは──。
「──何処にでも居て、何処にも居ないのですから」