嚮導報酬
「──此度の嚮導役の受諾、改めて御礼申し上げます」
「そんなに畏まらなくていいよ、それなりに面白かったし」
「……それは、何よりです」
4人が退出した後、入れ替わるようにソファーへ腰を下ろしたユニに対して恭しく謝意を述べるも、あくまで自分の為だからと主張する眼前のEXランクに苦笑するセリオス。
……畏まらなかった場合どうなるかという想像が及ばぬ以上、最初からそんな選択肢はないのだが──いずれにせよ。
「では、〝嚮導報酬〟の交渉に移らせていただいても?」
「お手柔らかによろしくね」
「えぇ、それはもう」
畏まる以外の選択肢がない相手との対話など、ましてや金の話など早く切り上げて然るべきであり、これ以上こちらの都合で時間を割かせぬ為、速やかに本題へ移行する。
嚮導報酬、読んでそのまま嚮導役への成功報酬。
あらかじめ少額の前金は手渡していたが、こうして成し遂げたのだから言わずもがな全額支払う義務があるわけで。
「まず、通常の相場に則った報酬金がこちらになります」
「異論はないよ」
「ありがとうございます。 では次に……」
正確に言うとSランクではなくEXランクの狩人ではあるものの、それを知るのはごく一部の人間のみである為、〝Sランク狩人を雇った場合〟の相場に則った報酬金が発生し。
「『我が娘をよろしく』と4家の貴族から預かっていた手付金を、そのまま〝達成報酬〟として貴女に。 こちらが受け取ってしまうと、〝収賄〟とも取られかねませんので」
「……そんなの要らないんだけど」
「まぁまぁ、寄付か何かで消費していただければ……」
加えて【黄金の橋】の4人の生家に当たる貴族たちが、それぞれ娘が狩人になる事を許可する際に協会へ〝心付け〟という形で秘密裏に手渡していたらしい多額の金も、さも押し付けるようにユニの報酬の一部にしようとしたものの。
貴族が出処というだけで受け取りたくなさ満点になっていたユニを、それとなく妙案を提言する事で宥めた後。
「そして最後に、【黄金の橋】が迷宮攻略の踏破報酬として3つの迷宮宝具を獲得している為、貴女には〝補填〟という名目で──……そうですね、これくらいでいかがでしょう」
「額はいいけど、これって異例なの?」
最後にして最も重要な7日目の迷宮攻略における4人の収穫が、ハーパー、ハクア、シェイの3人が装備するに相応しい3つの迷宮宝具だったという事実、本来ならユニが獲得していただろう事実を鑑みて、このくらいかと過去の経験から判断した決して少なくない額をセリオスが提示する一方。
補填がどうのと言われても今回が初嚮導役だったユニからすれば、この追加報酬が妥当なのかどうかさえ解らず、もらえる物はもらっておくが説明は欲しいと主張したところ。
「非常に稀ですが、なくはありません。 たとえ等級が最低のFランクであろうと、迷宮宝具は迷宮宝具ですから」
「へぇ、そうなんだ」
「……」
過去の経験に基づいて額を提示してきた時点で薄々解っていた事ではあるものの、どうやら数年に1度くらいの頻度で類例に乏しい事象ではあるようで、こうして発生するたびに想定外の出費を強いられる為、協会としては望ましくはないが新米の成長の証と言われると──……という感じらしい。
尤も、そんな協会サイドの苦言や愚痴などユニからすれば心底どうでもよく、SだったりAだったりしたらしい3つの迷宮宝具を誇らしげに見せてきた【黄金の橋】へも似たような返事で返し、ユニにとってはもう終わった事なのだろうと誰から見ても露骨な、そして興味なさげな反応を見せた。
それから約数分に亘り、いくつかの書類に目を通してサインするという単純ながら重要な作業を繰り返した後。
「……はい、これで以上となります。 報酬の受け取り自体は、こちらの書類を受付に提出していただければ──」
トントンと協会が保管する方の書類を纏め終えたセリオスが差し出してきた1枚の書類は報酬請求用のものであったらしく、ようやく終わったとばかりに立ち上がろうとした彼の思考は、ユニからかけられた一言で停止する事となる──。
「──ねぇセリオス。 これで、認めてくれたかい?」
「……えっ?」




