【変生人形劇作家】
ゴキッ、メキメキ、グチャグチャグチャッ──。
『……何故、改変を? 消してしまえば早いではないですか』
「それはそうなんだけどね。 元々これ目当てだったから」
およそ人体から聞こえてはいけない生々しく痛々しい音が響く中、彼らを思いやる心など微塵も持ち合わせていない様子のフュリエルからの当然の──……当然の? 疑問に肯定の意を示しつつも、ユニはそもそもの目的を語り出す。
ユニが狙っていたのは、言うまでもなく3人の改変。
シェルトに施したものとは違う、〝望まれぬ改変〟。
かつて人間であった事実を歴史から抹消する改変。
肉を裂かれ、骨を砕かれ、血を垂れ流させられている事も頭から抜けてしまうほどの激痛に、もはや断末魔すら上げる事もできず、彼らの肉体は彼らの過去ごと改変されていく。
しかし、フュリエルの言う通り改変などせずとも殺してしまった方が後腐れなくて良い筈であり、何故と疑問を口にしてしまうのも致し方なくはあった。
よもや処罰感情ゆえか、ともフュリエルは考えたが。
ユニの狙いは、そんなところにはない。
ユニという人間は、あくまでも〝夢追い人〟。
己の夢を成就させる為の利とならぬ事はしない。
この迷宮の最奥で待つ護る者が人間の手により異形と化した増殖変異種擬きだと看破した瞬間、彼女は偏執狂たちの改変をこそ最終的な目的として掲げていたのである。
この改変による最大の利点は、3人の偏執狂が人間でなくなったが為に彼らが人造合成種を造ったという事実そのものが捻じ曲がり、〝最初からあの姿だった〟という歪んだ事実を正しい歴史として打ち立てられるところにあり。
人間の手により異形と化したという正しい過去を消された怪物は、〝擬き〟が外れた歪んだ増殖変異種となる。
……突然変異種相応のEXPを、獲得できるようになる。
ユニの狙いは、始めからそこにしかなかった。
まぁ、ついでに言うのであれば──。
「宝箱の中身も、より良い等級の何かに変化してる筈だよ」
『……そこまでしてやる必要が?』
「嚮導後補償ってやつさ」
突然変異種の中では最弱であっても、増殖変異種を討伐した──という事になった以上、踏破報酬の質が飛躍的に向上するという副次的な効果も出ていると笑顔で語るユニと対照的に、フュリエルは何とも不満げな様子で眉を顰めている。
主上の存在が、多少は認めたとはいえ矮小で脆弱な4人の人間相手に過剰な施しをしている事が気に食わないのだろうが、そんなフュリエルの小さな嫉妬心が届くより早く──。
「──おっと、そろそろかな」
およそ5分近くを要した【黄金術:逆理】がようやく完遂されたと悟ったユニがそちらへ目を向けると、そこには。
『『『O、O"OO……ア"ァァ……ッ』』』
『これは、一体……? もはや人間でさえないような……』
「人造合成種だよ。 アレとお揃いにしてあげたんだ」
『……なるほど、それは本望でしょうね』
重々しく悍ましい唸り声を上げる、生き物かどうかも怪しい3つ首の肉塊が未だ縛られたままの状態で転がっており、その哀れな末路を見たフュリエルの溜飲が下がる。
『時にユニ様、【変生人形劇作家】とは?』
「ん? あぁ、聞こえてたんだ」
そして多少なり溜飲が下がった事で思い返せたユニの呟きの真意を問う旨の疑問に、ユニは『本当に独り言のつもりだったんだけどな』と珍しい苦笑を浮かべつつ。
「ハヤテやクロマと同じ、最後の希望の1人だよ」
『Aランク最上位、という事ですか』
「大した事ないって思ってる?」
『えぇ、まぁ』
現状、世界に7人しか居ない実質的な狩人の頂点に立つ1人だと伝えても、フュリエルに驚きはない様子。
当然と言えば当然だろう、これまで出会ってきた4人の中に、フュリエルたち3柱と1対1で戦い勝利を掴み得る者など、ただの1人も存在しないのだから。
「まぁ確かに、最後の希望の中で将来的にSランクまで到達するだろうなんて言われてる狩人はほぼ居ない。 ハヤテや、クロマでさえもね。 けれど、その中でただ1人だけ近くSランクの境地へ到達するって多くの人間が断言してる狩人が居る」
『その1人というのが……』
それ自体はユニとしても充分に理解していたが、さもフュリエルの認識が間違っていると言わんばかりの言葉を口にするユニに、フュリエルが主上の存在の二の句を待ったところ、ユニは一呼吸置いてから──こう告げた。
「【変生人形劇作家】──この世界で狩人として活動するAランク以下の有象無象の中でSランクに最も近い道化師さ」