君たちだけとは思えない
ユニの言う、〝やるべき事〟とは何なのか?
何故、ユニはシェルトたちに内緒で移動しているのか?
その答えは、ほんの少し前にハーパー、ハクア、シェイの3人がある同業者たちを相手取った場所にあったようで。
「こんにちは、あの娘たちが世話になったようだね」
「ッ!? あ、貴女は……!!」
ユニが移動した先、【黄金の橋】が最初に人造合成種と遭遇した地点にて何気なく挨拶を交わした相手とは──。
「ゆ、ユニ様……!? 本当に、ユニ様なのですか……!?」
「あ、あの【最強の最弱職】が我らの眼前に……!」
「こッ、こんな格好ですみません……!」
「……」
……言うまでもなく、【黒の天山】の3人。
ユニとシェルト、そして人造合成種が大穴へ落ちた後、自分たちを差し置いて、ユニを嚮導役とした狩人講習を受ける事に成功した【黄金の橋】へ逆恨みをぶつけるべく襲撃。
人生を投げ打ってまで愚行を犯すに足る程度の実力は備えていたようだが、ハーパーたちには敵わず返り討ちとなり。
こんな格好と称してもおかしくない3人揃って頑丈な縄でぐるぐる巻きにして捕縛された状態で頬を染めたり頭を下げたりする男たちに、あのユニが呆れて物も言えなくなる中。
『……何なのです? この蛆虫どもは……』
(〝匹〟と数えてさえもらえないか)
フュリエルに至っては、もう単位を付けて数えてやる事すら忌避したいらしく、あろう事か蛆虫扱いし始めていた天使の呟きに苦笑いを浮かべるしかなくなっていたユニに対し。
「あの、ユニ様……! アレは、お役に立ちましたか!?」
「アレって?」
「無論、我らが造り上げた最高傑作の事です!」
「あぁ……まぁ、お陰でLvは上がったよ」
「「「おぉおお……ッ!!」」」
己らが犯した愚行の1つである人造合成種の創造を、まるで善行かの如く誇らしげに語る彼らに、ユニはただ〝レベリングの糧としては優秀だった〟と事実のみを述べ、それを聞いた3人は自分の事のように歓声を上げていたのだが。
……ここで1つ、疑問を抱く筈。
何故、ユニの職業や武装のLvが上がっているのか? と。
EXPは、たとえ竜化生物の討伐に居合わせていたとしてもダメージを与えていなければ分配される事は絶対にない。
人造合成種を討伐したのは【黄金の橋】の4人。
ユニは、あの異形の怪物に1のダメージも与えていない。
この戦いの中で、ユニが成した事といえば──。
時間稼ぎが目的の、人造合成種の拘束。
戦場を移す為の、足場の崩壊。
そして何より──シェルトを含めた、2つの改変。
ユニの言葉通り、改変させたのはシェルトだけではない。
シェルトの剣──今は〝剣笛〟とでも呼ぶべきか──フリューゲルもまた【黄金術:逆理】を受けた存在の1つ。
どうやら【黄金術:武装】ではなく、フラガラッハを1つの意思持つ生物として扱い、【黄金術:逆理】を発動し。
シェルトよりは簡素な、たった1つの改変を成していた。
──お前の主人は、2人居る。
──お前を装備する少女と、この私。
──だから、お前を使って得たEXPは私にも寄越せ。
という、無慈悲な改変を。
その為、シェルトが得た数値と全く同じEXPがユニにも加算された結果、魔剣士のLvが100に到達したようだ。
ちなみに【剣】と【笛】は特に上がっていない。
もう、100になって久しいからだ。
まぁ、それについては有難かったのも事実なのだが。
「……私も暇じゃない、手短に用を済ませたいんだけど」
「な、何か御用でしょうか……?」
「我々でよろしければ、なんなりとお申し付けを!」
「用件は1つだけ。 ちょっと聞きたい事があってね──」
ユニの本題はそこにはなく、もう少しだけ近寄ってから彼ら3人の顔を1人ずつ見遣りつつ投げかけた問いかけに。
「──君たち全員、誰に唆された?」
「「「……はッ?」」」
3人は全く同じタイミングで疑念の声を上げたが。
つまりユニは、暗にこう言っているのだ。
君たちだけの所業とは、とてもじゃないが思えない、と。