踏破報酬と、そして
ある1つの数値を除き、あらゆる能力値で上回っている筈のハクアが満身創痍であったというのに、こうして姿を現したシェルトが3人の憶測よりも軽傷であったその理由。
「……爆発の衝撃より先に飛んできた表皮が盾に、そして緩衝材になったんだと思うわ。 そのお陰で、ちょっとの火傷と打撲程度で済んだみたい。 これなら自前の魔術で治せるから心配しなくていいし、まずハクアを治してあげてくれる?」
「りょ、了解しました!」
どうやら爆発の瞬間、膨張により剥がれた表皮の一部が運良くシェルトに被さる盾のように飛来し、その表皮は運良く着地の瞬間に爆風の影響で滑るように位置を変え、シェルトを壁との激突から護る緩衝材のようにもなったらしく、そんな幸運が連続した事で彼女は運良く生き残ったのだという。
「……〝奇跡〟、という他ありませんわね……」
「そう、ね。 2度目がある気はしないもの」
信じられないといった面持ちのハーパーが呟く通り、まさに〝奇跡〟と形容する他ない超幸運を体験したシェルトこそが誰よりも同じ事は2度とできないだろうと自覚しており。
(……つくづく運だけは良いわね、私)
喜べばいいのか嘆けばいいのか、解らなくなっていた。
生来、LUKだけが突出している自分の能力値に──。
「ッし! 傷も癒えた事だし、開けにいきましょうよお嬢!」
「開ける? 何を……」
「決まってるじゃないすか! 〝踏破報酬〟の宝箱っすよ!」
「……あぁ、そういえば……でも……」
「「?」」
そんな中、シェイの【黄金術:秘薬】による回復薬で疲労はともかく傷そのものは全快したハクアからの提案に、それが目的で来たわけではないとはいえ確かにと唸るシェルト。
──踏破報酬。
文字通り、最奥まで迷宮を踏破した者に与えられる報酬。
迷宮の主を討ち倒した後、大小問わぬ〝宝箱〟の形で現れるそれの中には、この世界で問題なく使用できる貨幣はもちろんの事、目も眩むほどの金銀財宝や優れた武具などが無作為に、それでいて迷宮の難易度に応じた等級で入っており。
狩人ごとに何が当たりかは変わってくるだろうが、やはり武器や防具、装飾品や消耗品など多種多様な物体を模って現れる神々の遺物、迷宮宝具が1番の当たりとなる事が多い。
ちなみに以前、白色変異種を討伐した迷宮にてユニが宝箱を開けに行かなかったのは核の破壊を優先した為であった。
……まぁ、それはさておき。
当然シェルトたちも迷宮宝具が出てきてくれる事も期待しているものの、この迷宮は人間の手により改造された護る者が強敵だっただけで、迷宮自体の難易度は世辞にも高いとは言い切れず、ハッキリ言って中身の等級は期待などできず。
そればかりか性悪な〝罠〟が仕掛けられていても何ら不思議ではない、とシェルトが人知れず悩んでいたその時。
「宝箱なら精霊たちが見つけてくれてますわよ。 あの怪物を倒してくれたお礼にと罠の有無も調べてくれたようですわ」
「そう、なの? じゃあユニ様に許可をいただいてから──」
そんなリーダーの心情をとっくに見抜いていたハーパーからの、『罠はないから安心していい』という心遣いに微かな安堵を覚えたシェルトは、とにもかくにもユニの判断を請わない事にはと、きょろきょろ辺りを見回したはいいものの。
「──……ユニ様? いらっしゃらないんですか……?」
視覚でも聴覚でも、ユニの存在を捉えられないシェルト。
もちろん何らかの手段で姿を隠していた事自体は解っていたが、こうして戦いが終わったならば姿を見せてくれるのではと、あわよくばお褒めの言葉をもらえるのではと思っていたが、どうやらそう思っていたのは彼女だけだったようで。
「迷宮を出るまでが攻略、っつー事なんじゃないっすか」
「なるほど、それまでは私たちだけでという事ですわね」
「自主性を、重んじてくださっているのでは……?」
「……そう、なのかしら……」
シェルトよりもよほどユニの事を解っている3人からの正論に対し、それでも納得がいっていない様子ではあったが。
「……それじゃあ、開けてみましょうか」
「「「はい!」」」
結局は観念して頷きつつ、ちょうど人間1人が入りそうな寸法の宝箱に手をかけ、4人揃ってその中身を拝んだ──。
『よろしいのですか、ユニ様。 踏破報酬を譲ってしまって』
「あの娘たちなりに頑張ってたし、そもそも今回の迷宮攻略は講習の一環だったからね──……まぁ、本音を言うなら」
「私は私で、やるべき事があるからなんだけどさ」