戦いの終わり
その爆発は、たかが人間4人を始末する為と言うにはあまりに規模も威力も大きく、とてもではないが錬金術師1人の腕に防御を委ねていいような現象ではない事は確かである。
いくらシェイが、いずれ最後の希望の境地にまで辿り着き得るほどの優秀な才覚を持った錬金術師であったとしても。
つまり、ここで重要になるのはもう1つの〝希望〟。
シェルトとハクアの〝LUK〟による生存確率の上昇。
本来、LUKとは主に〝自分の攻撃の命中率〟や〝相手からの攻撃の被弾率〟などを左右するものであって、〝被弾が確定している攻撃の威力〟を軽減する能力値ではなく、どちらかといえばそれはDEFやMNDの領分になる筈だが。
これから2人を襲う爆発の衝撃は、どれだけ他の能力値が優秀であろうと関係なく命を奪うほどの威力を誇っており。
DEFやMNDの数値が関係してくるのは、むしろ──。
「【黄金術:属性】! ハーパー様、こちらへ……!」
「えぇ! サラマンダー、シルフ! 熱を逸らして!」
2人に比べれば距離があるとはいえ充分すぎるほどの致死圏内に居るハーパーとシェイの方であり、かたや通常の魔術では再現できない優れた耐熱性を持つ合金の壁を、かたや壁1枚では遮り切れない熱を後方へ逸らす低温の熱波を展開。
「「〜〜……ッ!?」」
実際に襲い来る衝撃が想定以上に強く激しい事実に壁の後ろで驚愕しながらも、2人の護りは──……崩れない。
もし、ユニに出会う前ならば。
もし、今の職業に転職する前ならば。
2人の護りはあっさりと崩れ、凄惨な死を迎えていた筈。
それを思えば、やはりユニの判断は正しかったのだろう。
そして、およそ1分近くも続いた爆発の衝撃は──。
「……音が、止んだ……? 終わっ、たんですかね……?」
「……おそらくは。 シェイ、外へ出ますわよ」
「は、はい」
不気味なほどの静寂とともに終わりを告げ、シルフのお陰で立ちこめる土煙により咳き込む事はないが、それでも壁を消して向こう側へ進んでみない事には2人の安否も解らず。
意を決して、ハーパーとシェイは壁の向こう側を見遣る。
「「……ッ!!」」
そこには、まるで爆心地かの如き無残極まる光景が広がっており、2人は思わず死臭に嘔吐きながらと歩みを進め。
「肉片が、至るところに……血の臭いが凄いですね……」
「うぅ、足元どうにかなりませんの……?」
肉片はもちろんの事、骨片や皮膚、爪や牙などが浮かぶ血溜まりが辺り一面に広がる悍ましい戦いの跡地をおそるおそる、されど確実な足取りで歩きつつ周囲を見回していた時。
「!? 何か動いて──」
グチャッ、という不快な音ともに視界の端で何かが蠢いた事に気づいたシェイの声で、あり得ない事とはいえ『この状態から再生を』と警戒を強めた2人が臨戦態勢に移行したのも束の間、散乱していた肉と骨の山を内側から壊すように。
「──げほッ……! あぁクソ、酷ぇ目に遭った……!」
「! ハクア、よく無事で……!」
「自分の事はいいっす! それより……!」
「そうだ、シェルト様は──」
狂戦士であるがゆえか、それとも彼女の素質がゆえか満身創痍かつ血塗れでも精神は折れていなさそうなハクアが斧を片手に勢いよく飛び出てきた事で2人が彼女を案じて駆け寄るも、ハクアはあくまでシェルトを優先しろと叫ぶ。
改変後、3人にとってシェルトは〝実力や素質こそ自分たちには僅かに劣れど頼りになるリーダー〟という認識になってはいたが、だからといって放置していい理由にはならず。
シェルトに優る自分がこの有様である以上、まさかという事もあり得ると気づかされた2人が周囲に意識を向けた時。
「──……ここよ、皆」
「「シェルト様ッ!」」
「お嬢! ご無事で……!?」
「えぇ、見ての通り」
シェルトたち、【黄金の橋】の完全勝利が確定した。