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狩人講習:7日目・【黄金の橋】 (陸)

 シェルトは、あの異形の怪物が〝肉の翼〟を獲得してから今の状況に至るまでの全てを──……読み切っていた。


 上空から撃ち続けられていた息吹ブレスの弾幕が、〝哀れにも翼を持たぬ者たち〟から足場を奪う目的を兼ねていた事も。


 己らを目掛けて飛来してくる2人を見た2つの首が、リーダー格の意向を無視して弾幕を集中させてくるだろう事も。


 その為に、シェルトたちの周囲を衛星の如く飛び半自動的に息吹ブレスを迎撃可能な小型の人造竜化生物が必要になる事も。


 そして、いざ目にも留まらぬ速度で迫ってみれば4人全員の殲滅より眼前の2人の始末を優先し、まだ充填を終えていない未完成の、されど人間相手には充分な息吹ブレスを放つ事も。


 シェルトは、その全てを読み切っていたのだ。


 だからこそ、2人は欠片も焦っていない。


 ……狂走薬ハンターズハイによって得たSPD(敏捷性)が想定を大きく上回り、とんでもない速度を出してしまったせいで今にも全身の筋肉が引き千切れそうなほどの鈍痛が襲っている事を除けば。


 しかし、そんな痛みなど今の2人には些事でしかない。


「いくわよハクア!! この戦いに……ッ!!」


「っす! 決着ケリつけましょう!!」


 まるで痛みを感じさせない高揚感に満ち溢れた叫びを響かせながら各々の武器を振りかぶるその姿は、もはや1週間前までの狩人ハンターとも呼べない未熟で歪な半人前のそれではなく。


「【剣聖術:付与(エンチャント)】! 喰らえ、【剣操術:竜殺(ドラゴンキラー)】ッ!!」


「【狂奔術:狭窄(アイズユー)】! からのォ!【斧操術:丸鋸(バズソー)】!!」


『『G、RYEEEE……ッ!?』』


 その場に応じた的確な指示を出し、指示された以上の結果を齎す優れた竜狩人ドラゴンハンターたちによる見事な断頭を披露した。


 向かって右に位置する激情型の首をシェルトが、向かって左に位置する沈着型の首をハクアがそれぞれ得手とする技能スキルで刎ねた事により、2つの首は少し遅れて断末魔を轟かせながら重力に従って緩やかに、されど確実に落ちていく。


 ……もし首が2つだったらこれで終わっていたのだが。


 あいにく彼らは──〝冥界の番犬(ケルベロス)〟擬き。


 もう1つ残っている首こそが、本命たるリーダー格の首。


『〜〜ッ!! BOWGROOOOOOOOWLッ!!』


 首2つこそ刎ねられてしまったが、リーダー格は『だから何だ』と言わんばかりに2人の攻撃が終わった隙を突くべく渾身の魔力を込めた息吹ブレスを口に蓄え、その神々しさすら感じる光が刎ねられた首の切断面から漏れ出ていた事を──。


「──今よ! ハーパー!!」


「心得ましたわ!!」


 シェルトとハーパーは、見逃していなかった。


 ……否、()()()()()と言うべきだろう。


 これもまた、シェルトの読み通りの事象だったからだ。


「偉大なる精霊の女王よ、どうか今一度お力を……!!」


 シェルトの声を号令として受理したハーパーは、ここまで何度も行使したせいで精神力が随分と削られている事を自覚しつつも再度【謁見行為オーディエンス】を行使、精霊女王の御手を招来。


 リーダー格の口を塞いで息吹ブレスの放出を抑制する──。


 ──……かと思われたが。


 精霊女王の御手が塞いだのは、リーダー格の口ではなく。


『!? Gッ、GYEE……!?』


 すでに刎ね飛ばされた2つの首の、切断面。


 何の目的があって己ではなくそちらを狙うのか──とリーダー格が疑念を抱いたのは、ほんの一瞬の事であり。


 直後、4人の狙いをリーダー格は身を以て知る事となる。


『……GBBッ!? O"、GOOO……ッ!!』


 シェルトたちが狙っていたのは──〝魔力の逆流〟。


 2つの首を刎ね飛ばしても息吹袋ブレスタンクは未だ健在、魔力を蓄え息吹として放出する為の口は失くなっても、すでに口の方へと送り込んでいた魔力が消え去ってしまうわけではない。


 塞ぐ前、切断面から漏れ出ていた光は言うまでもなく息吹ブレスになる前の魔力であり、あのまま放置していたら充分に制御されていない魔力が無作為に放出され、シェルトたちはもちろんハーパーたちも命を落としていた可能性が高い。


 しかし、そうはならなかった。


 制御されていないという事は、相手の対抗策への手段を持ち合わせていないという事でもあり、ハーパーの力であれば比較的容易に抑制、及び方向の逆転による魔力の逆流さえ狙える筈だと半ば確信していたからこその策であったようだ。


 そうして逆流した魔力は根源たる息吹袋ブレスタンクへと戻っていきはするものの、いくら数百匹分の魔力に耐えられるよう改造済みといえど許容量に限界はある為、行き場を失くした魔力は皮膚や筋肉、骨や血管、細胞の1つ1つに至るまで侵蝕し。


 骨が砕け、肉が千切れ、皮膚が破れていくたびに襲う激しい痛みに喘ぐ人造合成種キマイラの身体が異常に膨張しているが。


「想定通り……ッ、なんすよね!? お嬢!」


「ここまではね……! シェイ、お願い!」


「はいッ!」


 ここまでも、まだシェルトの想定の範囲内。


 精一杯の大声で以て指示を出した瞬間、2人の周囲で待機していた計6体の人造竜化生物たちが、シェイの手の中にある菱形の水晶が光輝くと同時に合体、2人を護る盾と化し。


(討伐は確実に成功する……けど私たちが生き残れるかどうかは錬金術師アルケミストとしてのシェイの腕と私たちのLUK(運勢)次第……!)


 最後の最後で仲間に託すしか、そして自分たちの幸運に賭けるしかないという不安定な策を練った事を恥じる中──。


『YE、EEE……ッ、GYYYYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……ッ!!!』


「「……ッ!!」」


「シェルト様!?」


「ハクア……ッ!」


 元々それ自体が巨大な爆弾だったかのように、リーダー格の断末魔が轟く中、人造合成種キマイラの巨躯が──……爆ぜた。

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