狩人講習:7日目・【黄金の橋】 (伍)
ソロで戦っていた時に、これから放たれるだろう威力と規模の息吹を喰らっていたら、まず間違いなく死んでいた筈。
仮に対処できたとしても、それ以降の戦闘の継続は不可能だっただろう事を思えば、4人揃った今でも危機的かつ絶望的である事は疑いようもない──……筈、だったのだが。
(今までとは比べ物にならない規模と威力……! 好機!!)
シェルトの瞳は、〝希望〟の色に染まりきっていた。
まるで、この戦いの勝利を確信しているかのように。
そして瞳を煌めかせるのと同時に、シェルトとハクアは高速で飛びながら武器を持っていない方の手を懐に忍ばせ。
「ハクア! 例の薬を──〝狂走薬〟を使うわよ!!」
「了解! 副作用とかないと良いっすけどね!」
「あの娘を……シェイを信じましょう!」
狂走薬、シェイによってそう名付けられたらしい如何にも副作用がありそうな薬が入った小瓶を取り出しつつ。
パキンッ、と小気味良い音を立てて小瓶の先端を折り。
中に入っている、お世辞にも健康に良さそうとは言えないドロッとした緑色の液体を、勢いそのままに飲み干した。
──……その、瞬間。
「くぅ……ッ!?」
「うおあァ!?」
『『『ッ!?』』』
人造合成種の3つの首はもちろんの事、薬を服用した張本人であるシェルトとハクアすら驚愕せずにはいられないほどの〝爆発的加速〟によって、3つの首から息吹が放出されるどころか魔力が溜まり切るよりも早く2人が眼前に現れる。
──狂走薬。
それは、〝服用した生物〟や〝塗布した物体〟に服用や塗布される前の能力値や性能では不可能な速度を発揮させる効果を持つ薬であり、許容量を超えての服用や塗布は生物の場合は死を、物体の場合は崩壊を招く劇薬でもあるという。
今回、シェイが錬成した薬は人体への許容量ギリギリ。
おまけに基準は一般的な人間よりも強靭な肉体を持つハクアに定めており、シェルトに対してはギリギリどころか僅かにとはいえ超過してしまっている事は把握済みである。
薬を錬成したシェイも、それを服用したシェルトも。
他でもない、シェルトの指示によって。
今のところ、シェルトの肉体や精神に異常は出ていない。
しかし、それが〝悪影響を及ぼさない〟という事の証明になどなり得る筈もなく、もしかすると戦いの後にでも──いや、この後すぐにでも彼女は死んでしまうのかもしれない。
だが、シェルトはそんな事など考えてもいなかった。
今はただ、この異形の怪物を討つ事だけを──。
『『『ッ、OOO──』』』
そんな事情こそ知る由もないものの、このままでは先手を打たれてしまうと3つの首で判断した人造合成種は、まだ溜まり切っていないとはいえ2人を消し去るには充分すぎる魔力を込めた息吹を吐き出すべく、3つの口を大きく開けたが。
……もう、遅かった。




