狩人講習:7日目・【黄金の橋】 (肆)
数えるのも馬鹿らしくなるほどの弾幕めいた息吹を撃ち続けている人造合成種だが、MPの底は未だ見えてこない。
それもその筈、彼らを造り上げた3人は肉体や息吹袋だけでなく、その巨躯に相応しい内在魔力をも移植させており。
迷宮を護る者3体分に加え、迷宮を彷徨う者や地上個体数百匹分の魔力を破裂寸前まで貯め込ませた人造合成種のMPは、ユニが少し前に斃した白色変異種のそれにも匹敵する。
まず以て、MP切れを期待する事などできそうにない。
……そんな事は、【黄金の橋】とて百も承知だった。
これ以上の長期戦は不利にしか働かないと解っていた。
そこでシェルトが打ち立てたのは、その不利を覆し得るに足る〝短期決戦の策〟であり、それを成すべくシェルトは如何にもリーダーらしい声かけを徹底させていく。
「シェイ、〝例の薬〟を私たちに! その後は適宜支援を!」
「は、はい! お気をつけて……!」
当初は違う使い方をする予定だった、【|黄金術:秘薬『アルケミックポーション》】によってシェイが錬成した薬をシェルトとハクアが受け取り。
「ハーパー、精霊たちの準備は整ってるわよね!?」
「滞りなく! すぐにも撃ち出せますわ!」
シェルトの指示を受けた後、独り後方で多数の精霊たちとともに何かを造っていたハーパーの準備も完了したようで。
「ハクア、若い身空で命を失う覚悟はできた!?」
「心配ご無用! 自分、死ぬ気ァねぇんで!!」
「それでこそよ! ハーパー、お願い!」
「お任せを!」
行きも帰りも保証されない〝死出の旅〟にて運命を共にする覚悟はあるかと問われたハクアの、まるで死相の見えない笑顔を浮かべての生意気な返事に満足げな笑みで返したシェルトは、準備が整った事を確認してから最後の指示を出し。
「サラマンダー! ウンディーネ! シルフ! ノーム! 私たちの勝利の為に、2人の武運の為に──……ッ、撃てぇ!!」
「「ッ!!」」
4つそれぞれの属性を司る精霊たちの力を借りて造り上げた〝発射台〟に、そこから撃ち出す砲弾としてシェルトとハクアを装填したハーパーの号令とともに2人が発射される。
未だ高度を落とす事なく飛ぶ、異形の怪物を目掛けて。
当然、彼ら自身が展開する弾幕の中でも優れた嗅覚によって2人の飛来を察知したリーダー格の首は、その速度だけ見れば自分たちを上回るかもしれないとは認めながらも。
『WOLLF……?』
だから何だ、と疑問を抱く。
いかに速度があろうと、こちらの息吹1発で致命傷を負うだろう脆弱な人間どもが、この高度まで雁首揃えて飛んで来たところで何ができるというのかと疑問を抱いていたのだ。
もちろん、その疑念は他2つの首も共通して抱いており。
『GORRッ!! BOWRROOッ!!』
『WOF、LEEF……!』
命中率は置いておいて〝数打ちゃ当たる〟を地で行く息吹の弾幕を、シェルトとハクアを撃墜させるべく数百個もの弾丸の如く放出したが、それら全ては徒労に終わる事となる。
『『『──! ────ッ!!』』』
『『RE、OOッ!?』』
声とも呼べない叫びを上げ、シェルトとハクアの周囲を衛星のように飛び回る小型の人造竜化生物が1人につき3匹ずつ精霊の力を借り受けて追従しており、それらが強化された肉体で息吹へと目まぐるしく特攻、2人に余計な力を使わせぬように相殺していく中、リーダー格の首が溜息をこぼし。
『──……GROOWL』
『『! BOWッ!!』』
ごく短い唸り声で以て、2つの首を瞬時に統率する。
もう細々としたやり方は必要ない。
『『『OO、OOO……ッ、RUOOOO……ッ!!』』』
巨大で強大な一撃にて、この戦いを終わらせよう──と。