狩人講習:7日目・【黄金の橋】 (壱)
シェルトにとっては職業と武装を一新してから初となるパーティー全員での戦いだが、3人にとってはそうでもない。
何しろ3人からすれば、シェルトは元より魔剣士。
いつも通りに戦うだけでしかないのだから。
それゆえ戦闘開始直後は、シェルトと3人の間に小さくない感覚のズレが生じ、あわや大きな痛撃を受けかけそうになるタイミングがなかったとは口が裂けても言えないが──。
『『『G、O"OO……ッ、ROO、EEE……ッ!!』』』
「そのまま押さえててハーパー! できれば10秒ほど!」
「えぇ、それ以上は保ちませんわよ……!」
シェルトの指示を受け、あの3人を拘束していた時よりも更に大きく強固な精霊女王の御手で以て、ハーパーが可能な限り人造合成種の動きを抑制しようとし。
「シェイ、〝例の薬〟は錬成できた!?」
「は、はい! こちらに……!」
同じくシェルトの指示により、何らかの効果を秘めた新薬の用意をと頼まれていたシェイが短時間での錬成に成功し。
「行くわよハクア! 貴女と私で……!」
「首を1つずつ刎ねるんすよね!」
「そう! そして最後の1つには全員で速攻を仕掛ける! 刎ねた2つの首が再生し切る前に! 覚悟はいいわね!?」
「「「はい!!」」」
やはりシェルトの指示に従い、追随する形でシェルトとともに駆け出したハクアが左の首を刎ねるべく斧を構え、そして追加の指示を受けた他2人も合わせて必殺の陣形に移行。
まるで、1つの生物であるかのように息の合った連携。
……それを誰より厄介に感じ、疎ましく思っていたのは。
『『『RR、R……ッ!!』』』
他でもない、【黄金の橋】が相対する人造合成種である。
あの3匹に翻弄されるのも口惜しいが、まだ我慢できる。
現時点での総合的な戦闘力そのものは彼らの方が上であるものの、その資質や才覚だけを見れば人間の手で造られたに過ぎない自分たちを凌駕していると本能で悟っていたから。
……しかし、しかしだ。
再び自分たちの前に姿を現してからというもの、どこまでいっても身の程知らずの雑魚でしかなかった筈の矮小な餌が他3匹と同等とまではいかずとも食い下がり、あろう事か指揮まで執っている事実。
これだけは、どうしても受け入れ難かった。
……受け入れるわけには、いかなかった。
もし、その事実を受け入れてしまったのなら。
3匹の助力前提とはいえ、あの矮小な餌と自分たちが対等な戦いを繰り広げていると認めざるを得なくなってしまう。
そんな事は、あってはならない。
人間手により造られた彼らにも、誇りはあるのだから。
最低限の誇りくらいは持つように造られていたのだから。
その強き思いに応える為か、或いは彼ら自身が追い込まれている場合に自動で発現するよう改造されていた為か。
『『『GRRR……ッ!! BOWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOFッ!!!』』』
「「「「……ッ!?」」」」
突如、背中と両前脚から肉体を内側から裂くようにして飛び出してきた4枚の巨大で禍々しい鮮血滴る〝肉の翼〟を羽ばたかせ、ユニが崩落させた穴を空と見立てて飛び上がった人造合成種の姿に、【黄金の橋】は揃って同じ感想を抱く。
あれではまるで、空を征く要塞のようだと──。