閑話:怖いくらいの変化
一見すると優勢に思えても、すぐに追い詰められる──。
そんなユニの見立ては残念ながらと言うべきか、正しく。
新たな職業と新たな武装を得て格段に強くなったのは疑いようもないが、それでも絶望的な〝体格〟と〝質量〟の差を埋められるところまで使いこなせてはいなかったらしく。
『『『BOW、WOOFッ! GROOOOッ!!』』』
「う"ッ!? ぐ、は……ッ!!」
強靭な尻尾を己とシェルトの間に割り込ませ、あえて視界を遮りつつ放出された息吹は彼らの尻尾の肉片ごとシェルトを吹き飛ばし、息吹自体のダメージこそ満足に与えられてはおらずとも、その圧倒的な質量による痛撃は尋常ではなく。
(まだ、まだ戦える! 1人でもやれるって証明しなきゃ──)
鈍重な肉片と衝突し、石ころ塗れの地面を転がり、壁に叩きつけられながらも立ち上がろうとしたシェルトの身体が。
「ッあ……?」
ガクンと崩れ落ち、本人の意思とは正反対に膝をついた。
魔剣士となったシェルトの能力値は転職士だった頃と比較すると倍どころではなく、SPDも大幅に上昇した兼ね合いで大きな被弾こそなかったが、それでも己を上回る強者を前に小さな被弾を重ねた影響でHPは削られ続けており。
遂に、立ち上がる事さえ不可能となってしまったのだ。
「こ、の……ッ! 動け、動け……ッ!!」
幸か不幸か、戦意そのものは失われてはいない。
人造合成種を討伐したいという事以上に、あの3人に並び立ちたいという強い想いが何とか戦意を保たせていたが。
それも、身体が動かなければ何の意味もない。
そして次の瞬間、ガクガクと産まれたての小鹿が如く震えながらも立ち上がりかけていたシェルトの息の根を今度こそ確実に止める為、再生に再生を重ねて強靭さを増した右前脚で踏み潰そうとしたものの、それが成される事はなかった。
「シェルト様! 大事ありませんか!? お怪我は……!?」
「ッ!? 貴女たち、いつの間に……!」
何故なら、その強烈な足踏みが地面を踏み砕く直前にハーパーが顕現させた精霊女王の右手が振り下ろされる脚を受け止め、左手がシェルトを自分たちの方へ引き寄せたからだ。
戦闘に夢中というより、それ以外を気にしている余裕がなかったがゆえの突然の事態に、お礼より先に3人がここに居る事実そのものに驚き疑問を口にする事を優先していたが。
「不躾とも考えましたが、居ても立っても居られず……!」
「た、助けてくれたのはありがとうだけど、でも──」
ユニの力で認識が改変されていてもなお──確認してはいないものの──1人では倒せないと思われていると邪推してしまったシェルトは礼を述べつつ助力を固辞しようとする。
余力など、もう欠片も残っていないというのに。
「お嬢! 自分ら4人で【黄金の橋】じゃないっすか!」
「ボクたちも、力になりますから……!」
「ッ、貴女たち……」
だが、ハクアとシェイの言葉に思いやりと信頼を仄かにとはいえ感じ取ったシェルトは──突然だったから疑ってしまっただけでハーパーも同様である──精霊女王の御手で押さえつけられている人造合成種の事も忘れて感極まりかける。
もちろん、これはユニが気まぐれで与えてくれたもの。
シェルトが自分で掴み取ったものではない。
しかし、それでも嬉しかったのだ。
これまでは何をどうやっても〝護衛対象〟の域を出なかった自分を、〝仲間〟だと認識してくれていると解ったから。
ゆえにこそ、シェイが錬成してくれた回復薬で少しは動けるようになった身体で立ち上がりつつ3人と顔を見合わせ。
「……皆で、倒しましょう。 あの異形の怪物を」
「「「はい!」」」
1度は断ろうとした助力、延いてはソロではなくパーティーでの討伐を受け入れた事で、ようやく4人は完成した。
竜狩人パーティー、【黄金の橋】として──。
『……よろしいのですか、ユニ様』
「何が?」
『このままでは、あの者たちが討伐してしまうのでは?』
「あぁ、それなら大丈夫。 だって私が改変したのは──」
「──シェルトだけじゃないからね」
『えっ?』