狩人講習:7日目・改変 (弐)
人造合成種は、フラガラッハの変化に気づいていない。
違和感の1つくらいは抱いていたかもしれないが、『脅威には成り得ない』と彼らは彼らの中でのみ結論づけていた。
斬れ味や強度は優秀でも、所有者がアレでは──と。
……〝油断〟や〝慢心〟だと言い切るのは簡単だろう。
しかし、先の一方的な戦いを経てしまっているせいで彼らの脳内からは〝矮小で惰弱な餌〟という認識が拭えず。
どうしても、違和感の正体には辿り着けなかったのだ。
少なくとも、現時点では──。
『『『BOW、WOOO……RREEEEEEッ!!』』』
とはいえ違和感を消し切れないまま迂闊に接近するほど愚かでもない為、筋肉の隆起を利用した爪や牙の弾丸を無数に放つという息吹に次ぐ新たな遠距離攻撃で仕掛ける一方。
「……大丈夫、大丈夫よシェルト……役立たずの私はもう消えた……今の私なら大丈夫……これくらいなら──」
構えた剣の腹の部分を額に当てて祈るように、或いは己に言い聞かせるようにシェルトは何かを呟きつつ、もう眼前まで迫ってきていた鋭利な弾幕に対し焦る事もなく構え直す。
冷や汗も止まり、冷静さも取り戻したその姿は、まるでユニのようだとあの3人なら持ち上げていたかもしれない。
「──捌き切れる筈ッ! 技能、なしでもッ!!」
『『『YELッ!?』』』
が、次の瞬間には感嘆符の付いた叫びを上げながらフラガラッハを力の限り振り回しており、その所作を『ユニのようだ』と形容するのはユニにも失礼だし、そもそもシェルト本人だって『そんな畏れ多い事言わないで』と拒絶する筈。
……閑話休題。
力の限りとは言ったが、人造合成種が上げた驚愕の鳴き声からも解る通り、防御を目的としたシェルトの連撃には一切の無駄がなく、斬る・突く・薙ぎ払う──お手本のような剣捌きで以て全ての爪と牙を撃墜した事に驚いていたのだ。
明らかに、つい十数分前までと何かが違っている。
否、何もかもが違っていると言うべきか。
だが、やはり外見に大きな変化はない。
だとすれば、変わっているのは内面──……職業か?
彼らを造り上げた者たちは、まだ彼らが未完成だった時に彼らの肉体を維持する為に、そして狩人との戦闘経験を積ませる為に数多くの狩人を誘導し、戦わせ、喰らわせてきた。
いずれユニへと献上する為に、そして今はユニに群がる身の程知らずな少女たちを1人残らず殲滅せしめる為に。
その際、技能や魔術はもちろん職業についても大まかではあるが彼ら自身も把握できており、その中に〝職業や武装を切り換えさせる〟職業があるという事も理解していた為。
もしかすると、つい先ほどまでの戦いは単なるレベリングでしかなく、今は普段使いしている職業に戻したのではないかと結論づけた時、彼らは更なる怒りに脳内を支配される。
やはり、ナメられているとしか思えなかったからだ。
『『『OOOッ!! RUOOOOOOOOOOッ!!』』』
「今度は突進……! あの質量は流石に技能が必要ね……!」
次なる一手として彼らが選んだのは突進からの跳躍、からの押し潰しという増殖変異種擬きとして相応しい攻撃であり、いくら何でも素の力では対処も何もあったものではないと解り切っていた為、シェルトがフラガラッハの柄を両手で持ちつつ鋒を人造合成種に向けた瞬間。
「いくわよ、フリューゲル! 私に力を貸して!」
フリューゲルと改名されたらしい剣の刃が溝を中心に2つに割れたかと思えば、2つに割れた剣身と剣身との間に魔力で紡がれた数本の透き通った〝糸〟が張られていき、まるで六弦琴や提琴のように変形したそれにMPを込め──。
「【笛操術:響撃】ッ!!」
【剣】ではなく、【笛】の技能を発動した。